非増患時代のクリニック経営戦略 ~クリニックの生産性の高め方~
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、クリニック経営にも大きな変化が生じつつあります。増患が困難な現在、生産性をいかに高めるかが、今後の経営を成功に導く鍵となります。今回はMICTコンサルティングの大西 大輔様を講師にお迎えし、非増患時代のクリニック経営戦略について解説します。
[セミナー日時:2021年8月2日(月)※Web会議ツール(Zoom)での配信]
1. ウィズコロナ時代のニューノーマル
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、人々の生活様式にはさまざまな変化が生じました。こうした変化は、クリニック経営にも大きな影響をもたらしています。
マスク着用や手洗い、3密の回避といった感染症予防が徹底されるようになると、風邪やインフルエンザといった季節性疾患は減少しました。これに伴い、クリニックで受診する患者数も減少しています。また、リモートワークを奨励する企業が増えたために通勤者が減り、都心部や駅前エリアのクリニックはさらに影響を受けています。
受診方法の多様化も、コロナ禍を通じて生じた大きな変化です。医療機関での受診による感染リスクを回避するため、時限的・特例的にオンライン診療の規制が緩和されました。のちにこれは恒久化されることとなり、オンライン診療への移行は不可逆の流れとなっています。
さらに、新型コロナ以外の要因もクリニックの変革を促しています。2021年10月にはオンライン資格確認の本格運用が開始され、2022年には電子処方箋の本格運用が予定されるなど、クリニックのデジタル化がいっそう進むと見込まれます。
すなわち、ウィズコロナ時代においては増患が困難さを増す一方で、急速なデジタル化によりクリニックをとりまく環境が劇的に変化しているのです。このような時代において、経営のニューノーマルはどのように定義できるのでしょうか。マーケティングの4P(Place、Promotion、Price、Product)で、クリニックの今後のあり方を考えてみましょう。
Place(場所)は、これまで都心部や駅前など、通勤を前提に利便性の高い立地条件が重視されていました。しかし、今後は患者の自宅に近い住宅地などが集患に有利になると予測されます。
Promotion(宣伝)はどうでしょうか。外出が減れば、電柱や駅の看板などのリアル広告を目にする機会も減っていきます。こうした広告に代わり、ウェブ、SNSといったバーチャル広告の価値がさらに高まるでしょう。クリニックもこれに対応するプロモーション戦略を策定しなければなりません。
Price(価格)に対するクリニックの意識も、変革を求められつつあります。患者数を増やすことが困難であれば、コスト削減による利益の最大化が必要です。コストをいかに減らすかは、次の項でご説明する生産性向上にも大きく関わる大切な要素です。
また、Product(商品・サービス)の重要性もこれまで以上に増すでしょう。患者数が減少する時代には、スタッフの品質もサービスの1要素ととらえ、選ばれるクリニックになるためのしくみ作りが欠かせません。
こうした4Pの各要素を意識してクリニックの変革を進めることで、ウィズコロナ・アフターコロナの時代にも大きな成果を達成できるのです。
2.ウィズコロナ時代に生産性を高めるためには
生産性は、売上高を経費で割って求めます。新型コロナウイルスの影響が続く現在、患者数や患者単価を伸ばして売上高を増やすのは困難です。そこで経費、なかでも大きな割合を占める人件費の抑制が、生産性向上の鍵になります。
では、人件費の抑制を阻み、生産性を低下させる原因とは何でしょうか。まず、業務スキルの属人化が挙げられます。特定の職員のスキルに依存した体制は業務に偏りを生み出し、その職員に長時間労働を強いる事態を招きます。また、複雑なフローも労働時間を長期化させます。こうした問題を解消し、同じ業務をより短時間で終わらせる方法を見出せば、生産性の向上を達成できるのです。
そのためには、業務の見える化で現在の課題を明らかにし、業務の再配分により偏りを是正していく必要があります。また、フローの見直しにあたっては、積極的にデジタルツールを業務に取り入れて、さらなる生産性向上を目指します。こうしたツールで一部の作業を自動化すれば、作業にかかるコストを大きく削減できるためです。
特に医療事務などで定期的に発生する単純な作業は、ツールによる自動化に適しています。事務作業をツールに移行した分、医師やナースがこれまで行っていた業務の一部を、医療事務に分配していきます。このようにコストの高い職務を低い職務へと移行・分配していけば、クリニック全体の人件費削減が可能です。
3.生産性を高める電子カルテ活用術
クリニックの生産性向上の鍵となるツールが、「電子カルテ」です。業務にかかる時間を削減するためには、クリニックに適正な端末数が配置されているかを確認しましょう。十分な端末数が確保されていれば、受付・診察室・会計といったさまざまな場所で分散して処理を行えます。これにより、カルテ作成にかかる時間を短縮できるのです。
電子カルテの作成を効率化するには、クラークの設置を検討するのも一つです。クラークは医療事務作業を補助する役割を果たし、電子カルテの入力や医療文書の作成などを任せることができます。電子カルテを医師が自ら入力するのではなく、入力内容を口頭などで指示し、クラークに代行入力してもらいます。医師は入力された内容をチェックして最終承認を行うフローとなるため、医師の負担を従来よりも大幅に削減できます。
電子カルテの記載内容をチェックする際には、チェックポイントを定めて即時の確認を実現する工夫も生産性を向上させます。特に、従来のレセプトはミスが生じやすく、修正作業が職員の稼働を圧迫しやすい業務です。会計とも連携してチェック項目を定め、レセプトの効率化を実現しましょう。管理料の算定漏れ、薬剤の用量・禁忌等のチェック、算定月・回数のチェックなどが代表的なチェックポイントです。こうした項目のミスをなくして返戻を減らせれば、それだけ作業も減り、クリニック全体の生産性は向上します。
4.生産性を高めるデジタルツール
コロナ禍を通じ、私たちの生活は大きく変化しました。感染予防にもとづく行動様式はアフターコロナの時代にも継続するとみられ、3密回避を実現するためのICT活用にも引き続き取り組む必要があると考えるべきでしょう。ICT活用によるデジタル化は、感染症対策だけではなく、クリニックの生産性向上や、患者の利便性・満足度の改善にも貢献します。先ほどご紹介した電子カルテのほかにも、さまざまな業務をデジタル化して、「選ばれるクリニック」へと進化していかねばなりません。
クリニックの業務は、予約から受付、診療、精算までデジタル化できる領域が多くあります。特に、2021年10月に開始されたオンライン資格確認への対応はぜひとも進めたいところです。業務のなかでも煩雑でミスが多いとされる保険証登録を自動化でき、オンラインで資格確認を完了することで資格過誤による返戻を減らせます。今後開始される電子処方箋と組み合わせれば、さらなる生産性の向上を達成できるでしょう。
クリニックをめぐるデジタル化は、急速な勢いで進んでいます。他のクリニックに後れを取ることのないよう、早期の着手が大切です。院長自身がITに詳しくないからといって、クリニックのデジタル化を進められないわけはありません。特に若年層はデジタルネイティブと言われ、幼い頃からスマートフォンやパソコンにも慣れ親しんでいます。こうした世代を積極的に採用し、これからの時代に求められるクリニックへと進化を遂げていきましょう。
最後に
新型コロナウイルス感染症により、クリニックは「非増患時代」に突入しました。こうした環境のなか経営を成功に導くには、これまでの常識にとらわれることなく、ニューノーマルを基礎とする新たなクリニック像を打ち出さねばなりません。その鍵となるのがデジタル化です。積極的に新たなツールを取り入れて、業務フローの効率化や患者満足度の向上を実現させましょう。早期に手を打てば、ウィズコロナ・アフターコロナの時代にもクリニックを繁栄させられるのです。
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