研究用にマウスが活用される中、動物個体での維持は飼育の手間などの難点もあります。体外受精などで得た胚や精子を凍結保存しておき、必要に応じて随時融解し、これを分娩させるなどで生体を得ることが可能です。
※ 「マウス胚バンク」とは:
ゲノム科学研究の中から生まれた貴重なミュータントマウスを収集し、そのマウスの胚を凍結保存して情報をデータベース化し、必要に応じて個体に復元し研究者に供与できるシステムを構築するもので、文部科学省・科学技術振興調整費 知的基盤整備推進制度によるプロジェクト「ゲノム機能解析に資する遺伝子操作マウスの胚・配偶子バンク確立のための基盤的研究開発」により構築されました。
体外受精と胚の培養
培地・器材等
TYH培地、mW培地、ミネラルオイル、キャピラリーピペット(ガラスヘマトクリット管を用いて自製します)、プラスチックシャーレ(35mm径)、マイクロピペット、チップ、解剖用具、実体顕微鏡、炭酸ガスインキュベーター
体外受精の操作法
実験日の前日、プラスチックシャーレにTYH培地300μLのドロップを作り、ミネラルオイルで覆います。このシャーレを炭酸ガスインキュベーターに移し、温度と気層を平衡にしておきます。
実験当日に雄マウスの精巣上体尾部から精子を採取し、準備しておいたTYH培地に導入して1時間前培養します。
あらかじめ性腺刺激ホルモンの処理によって排卵を誘起した雌マウスから卵管を摘出し、プラスチックシャーレ内のミネラルオイル下に移します。
実体顕微鏡下で、ミネラルオイル下においた卵管の膨大部を解剖針で破り卵子の集塊をTYH培地内へ導入します。
卵子の入っているTYH培地に前培養しておいた精子液を、最終精子濃度が150精子/μLとなるように添加して媒精をおこないます。
媒精後、直ちにシャーレを炭酸ガスインキュベーターに移して培養します。
胚培養の操作法
プラスチックシャーレ内に100μL量のmW培地のドロップを3個作成し、ミネラルオイルで覆います。
これを炭酸ガスインキュベーターに移し、温度と気層を平衡にします。
体外受精で得られた受精卵をmW培地のドロップに3回移し換えて洗浄し、炭酸ガスインキュベーターに移して培養します。
胚の凍結
保存液・器材等
PB1液、1M DMSO液、DAP213保存液、キャピラリーピペット、プラスチックシャーレ(35mm径)、セラムチューブ(1.2mL、 SUMILON MS-4501)、ホルダーケーン、マイクロピペット、チップ、実体顕微鏡、炭酸ガスインキュベーター
凍結操作法
プラスチックシャーレ内に100μLのPB1 液のドロップを3 個作成し、ミネラルオイルで覆います。
凍結する胚をPB1液のドロップに3回移し換えて洗浄し、炭酸ガスインキュベーターに保持しておきます。
プラスチックシャーレに1M DMSO液50μLのドロップを2個作成し、室温におきます。
準備しておいた胚を一方のドロップに入れます。最初、胚は浮き上がりますが1~2分で沈むのを待って、もう一方のドロップに移します。
DMSOに入れてから5分後、5μLの1M DMSO液とともに20個の胚をセラムチューブ*1に入れ、0℃に冷却しておいた冷却装置(チルヒート)のアルミブロックにセットします*2。
5分後、0℃に冷やしたDAP213保存液50μLをセラムチューブに添加します。
さらに5分間静置した後、セラムチューブをホルダーケーンにすばやくセットし、液体窒素中に直接浸漬して凍結します。
- *1) 1本のセラムチューブに入れる胚の数は任意ですが、融解後に仮親雌マウスに移植する際には20個あるいはその倍数が適当です。
- *2) 0℃の1M DMSO液およびDAP213保存液での平衡時間は30分以内であれば、融解後の胚の生存性に影響はありません。
胚の融解
融解液・器材等
mW培地、0.25M Sucrose液、キャピラリーピペット、プラスチックシャーレ(35mm径)、マイクロピペット、チップ、実体顕微鏡、炭酸ガスインキュベーター
融解操作法
液体窒素タンクからセラムチューブを取り出し、フタを外してチューブ内の液体窒素を捨て室温に60~90秒間静置します。
37℃に加温した0.25M Sucrose液900μLをセラムチューブに添加し、マイクロピペットで細かくピペッティング(溶液を攪拌)します。
チューブ内の溶液をプラスチックシャーレに移して実体顕微鏡下で胚を回収し、新鮮なmW培地に3回移し換えて洗浄します。
シャーレを炭酸ガスインキュベーターに移して10分間静置した後、形態的な観察をおこなってその正常性を判定します。死滅した胚は細胞が壊れたり、細胞質が収縮して黒ずんだ状態になります。