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尽きない「オンプレミス型か、クラウド型か」論争
電子カルテは、データをどこに保存するかによって種類が分かれます。「オンプレミス型」が院内に設置したサーバーにデータを保存するのに対し、電子カルテ提供ベンダーが用意した他社のレンタルサーバーに保存するものを「クラウド型」といいます。さらに最近では、院内のサーバーと電子カルテベンダーが用意した他社のレンタルサーバーの両方を利用できる「ハイブリッド型」も登場しています。
大病院を中心に一般化し、地方の医療機関にも普及しつつある「電子カルテ」ですが、新たに開業する医師の間ではもはや紙カルテより電子カルテを選ぶのが当たり前、という時代になりました。それに伴い、オンプレミス型とクラウド型それぞれが持つ良さについてもだんだん知られるようになりました。
たとえばオンプレミス型は、サーバーが院内にある分インターネット環境に左右されることがありません。そのためスピーディで快適に使うことができます。また、機能が充実しており、自分が使いやすいようにカスタマイズできるという点も大きなメリットです。
一方のクラウド型は、データを院内サーバーではなくレンタルサーバーに保存している分、自宅などの院外でも使うことができ(=ロケーションフリー)、パソコンやタブレットなどさまざまな端末にも対応しています(=デバイスフリー)。時間や場所を問わずに使えるので、寝る前などにサッと患者さんの情報を確認することも可能です。また、カルテの取り合いになることもありません。インターネット回線が脆弱だった時代はオンプレミス型が選ばれやすい傾向にありましたが、昨今ではクラウド型を選ぶ割合も増えてきました。
クラウド型にもオンプレミス型にもそれぞれのメリットがあり、一概に「どちらが良い」と言い切ることはできません。これは、多くの先生が「オンプレミス型とクラウド型のどちらを選ぶべきか」と悩む一因にもなっています。ただし、災害に備えるという点では、クラウドに対応することが重要です。
「災害が起きても安心」な電子カルテとはどのようなものか、本稿で考えていきましょう。
災害時も「医療をストップさせない」ための備え
院内が浸水したり、火災で建物が倒壊したりなど、物理的な損傷が出てしまうような自然災害対策を考える上では、電子カルテをクラウドに対応させることが重要です。
紙カルテが火災や水害に弱いことは簡単に想像できますが、だからといって単に電子カルテという「実体のないデータ」として保存しておけば安心、というわけでもありません。院内のサーバーにデータを保存するオンプレミス型の場合、火災や建物の倒壊などでサーバーが壊れてしまえばデータを復旧できなくなるからです。
それなら、データを院外(レンタルサーバー)に預けておけるクラウド型電子カルテを選べば安心なのか?というと、そうとも言い切れません。災害やトラブルの中には「インターネットが使えなくなるケース」もあり得るからです。オンプレミス型であればネット環境に左右されることなくデータに接続できますが、クラウド型を使うにはネット環境が必要です。電子カルテのデータそのものは無事でも、今すぐには使えないという状態に陥れば診療に支障をきたします。
そこで解決策となるのが、院内のサーバーとレンタルサーバーの両方を利用できる「ハイブリッド型」です。院内サーバーが故障した場合でも、インターネットに接続できない場合でも、接続するサーバーを切り替えることで診療を続けられます。
ハイブリッド型は普段は院内サーバーに接続するので、オンプレミス型のようにスピーディにカルテを作成できます。また、クラウド上に最新のデータを複製・保存するので、データを別の場所にも預けておけるという安心感もあります。ほかにも、オンプレミス型にあってクラウド型にはない「カスタマイズ性」や、クラウド型の「デバイスフリー」「ロケーションフリー」といった利便性もある程度担保されています。
電子カルテ選びで失敗しないためのポイント
ここまで災害対策という観点から、オンプレミス型・クラウド型・ハイブリッド型それぞれの電子カルテを比較・解説してきました。災害でお店や工場といった他のサービスが止まってもそのお客さんは待ってくれるかもしれませんが、患者さんのケガや病気は待ってもらえない場合があり、医療機関はストップするわけにはいけません。しっかりと災害対策を行うには、ありとあらゆる可能性を考慮して、さまざまな角度で「診療を継続するための対応」を考えることが重要です。
ただし、これまでも述べてきたように、それぞれの電子カルテは異なる強みを持っています。また、電子カルテに求める機能・役割は医療機関によって異なるため、災害対策という一点だけで決めることもできません。さらに近年は「ハイブリッド型」という選択肢も増えました。
自分に合った使いやすい電子カルテを選ぶには、各電子カルテの特徴を押さえた上で、自分がどんな使い方をしたいのかなども含めて総合的に考えることが大切です。電子カルテ選びのポイントとして、次号ではデバイスフリーやロケーションフリー、円滑な地域連携医療などについて紹介します。