電子カルテ導入率100%のフィンランドに学ぶ、医療IT最前線
北欧フィンランドは、「欧州における日本」と呼ばれるほど急速に高齢化が進んだため、高額な社会保障費が大きな問題となっていました。切り札として進められてきたのが医療のIT化です。電子カルテを中心とするデジタルデータを活用したシステムは、日本の医療IT化を考えるうえでも、先進事例として大いに参考になることでしょう。
フィンランドの医療体制
フィンランドの医療体制は、患者が体調に不安を感じたときなどにまず受診する一次医療と、専門医療を提供する二次医療から構成されます。一次医療は、自治体が運営するヘルスケアセンターが担っています。国民は居住地に基づき所属するヘルスケアセンターと主治医が定められており、診療が必要になった場合は予約を入れて受診します。日本の診療所に相当する医療機関です。二次医療を担う総合病院などには、ヘルスケアセンターが必要と判断した場合にのみ患者を搬送するしくみとなっています。緊急の場合を除いて、これらの病院を直接受診することはできません。こうした病診連携において重要な役割を果たすのが、普及率ほぼ100%を達成している電子カルテです。2007年には、地域ごとに分断されていた電子カルテ保管システムを統合すべく、集中管理型医療情報アーカイブの構築プロジェクトも開始され、全国規模で連携が進められることとなりました。
医療ITが実現する、先進的な医療サービス
フィンランドにおける医療システムを円滑に機能させるにあたり、大きな役割を果たすのが、ヘルスケアセンターに併設されたコールセンターです。患者が医療機関を受診すべきか判断がつかないような場合には、まずはコールセンターに連絡して指示をあおぎます。コールセンターは、患者の過去の通院履歴や処方箋などを電子カルテ上で確認することで、的確なアドバイスやトリアージを行うことができます。このような体制により、患者は真に必要なタイミングで必要な医療を受けることができる一方、医療機関は人的コストなどを削減できます。
また、ヘルシンキ市などでは遠隔ケアの取り組みも進みつつあります。従来は看護や介護が必要な人々の家庭をスタッフが訪問してケアサービスを提供していましたが、限られた人的リソースですべての対象家庭を訪問する負担はあまりに大きく、効率的にサービスを提供できずにいました。この解決策として注目を浴びるのが遠隔ケアです。双方向ビデオシステムを活用して、服薬管理や食事のチェック、リハビリの指導などを行います。こうした遠隔ケアにも、電子カルテを中心として連携された医療情報が寄与しています。
電子カルテのその先へ ― 包括的な医療データ活用
IoT技術の進化にともない、ウェアラブル製品やモバイルデバイスを介してバイタルデータが収集されるなど、さらに多様な医療データがデジタル化されつつあります。これらのデジタルデータを統合し、「デジタルヘルスインフラ」として最大活用すべく、2018年にPersonalized Health Finlandプログラムが開始されました。これは、電子カルテとして蓄積されてきた診療データや処方データに加え、ゲノム情報やバイオバンク情報といったさまざまなデータをプラットフォーム化して、患者ごとにパーソナライズされた医療を提供することを目指すものです。電子カルテを中心に整備されてきたフィンランドの医療システムは、さらに包括的なデータを活用する体制へと進化していくことでしょう。それは、医療そのものが一人ひとりに寄り添ったものへと、さらに充実していくことも意味するのです。