コロナ禍で本格的な実用が開始された、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン。
これまでのワクチンと比べて特に難易度が上がったのが、「温度管理」の問題と言えるでしょう。
輸送中の温度維持はもちろん、到着後、実際に使用されるまで低温を保つ必要があり、解凍も決められた条件で行う必要があります。
PHCにもこの数か月間の間に同様のお問い合わせをいただく機会が増えました。
そこで今回はこれらの問題を解決するためのソリューションをご紹介します。
課題
ワクチン解凍時の3プロセス。この厳しい温度条件をクリアし、ミスなく安全に管理しなければならない
今回、特に管理に問題が起きやすかった理由としては、超低温から-20℃・30℃、そして4℃と解凍の条件、プロセスが厳しかったことが挙げられます。これらの条件に基づいて温度管理ができなかったワクチンは廃棄となってしまいます。廃棄されたワクチンについて、議論が巻き起こったことも記憶に新しいのではないでしょうか。
薬剤の温度上昇を引き起こす要因としては
・解凍時間の管理ミス
・コンセントの抜け
・扉がわずかに開いていた
といったことがあったと言われています(※)。
(※ PHC調べ)
これらは人為的なミスともいえますが、特にこういった異常事態下では「ミスの起こりにくい環境作り」が欠かせません。しかし、こういった分野に知見がないと構築が難しいのも事実です。
ワクチンだけでなく抗がん剤・抗菌薬など、解凍プロセスが必要な薬剤はこれからも
今回、多くの医療従事者が慣れないオペレーションの中でワクチンの投与を行いました。しかし、今後もmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの活用は続くでしょう。
また季節性インフルエンザや三種混合、高齢者向け肺炎球菌感染症などのワクチンは今後も利用が続きます。
一方で、ワクチンだけでなく、抗がん剤・抗菌薬といった貴重かつ保管に注意が必要な薬品の活用も恒常的なものです。
こういった薬品類の温度管理を、「人の手・目による管理」に依存するのではなく、構造・機能上、ミスの起こりにくい製品・装置といった専用機器を取り入れていく必要があるのではないでしょうか。
温度上昇を知らせるアラートや、開きっぱなしになりにくい扉、温度管理のしやすい操作パネルで、薬剤・薬品の管理体制の強化策はこれからも増え続けていきます。
そのためにも、専用機器でできることは、専用機器に任せて、医療関係者の負担を減らすことが今後ますます重要となってくると考えられます。
【参考】ワクチン保管のベストプラクティスに関するガイドライン
また、流通のコールドチェーンの末端にあるワクチンの品質を保証するために、米国疾病予防管理センター(CDC)は、ワクチン保管のベストプラクティスに関するガイドラインを発表しました。
特に重要なポイントが、2℃~8℃の範囲※1で、正確で均一かつ再現性のある保存温度を維持しなければならないということです。温度管理の焦点は温度上昇であることが多いですが、ワクチンは温度上昇リスクと同じくらい凍結リスクの影響も受けやすいものなのです。
このガイドラインが指し示す、ワクチン保存の要点をまとめると以下のようになります。
・凍結の予防
ワクチンには再凍結も許されません
・温度制御の精度
2℃であっても凍結が始まってしまうこともあり、4℃前後を維持できる安定性が求められます
庫内温度の均一性
場所によって温度が違うと、気がついたら一部が凍結していたということも
迅速な庫内温度の復帰
ドアの開閉後、速やかに基準の温度に戻る必要があります
設置環境の温度上昇に対する耐性
周辺温度の影響を受けない環境である必要があります
以上の理由から、家庭用冷蔵庫を推奨しません※2