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細胞培養が上手く行かないときは、何が起きているのか? コラム|未来を創造するサイエンス

2021.4.13

細胞培養は、元々は単なる「実験方法の1つ」でしたが、現在では基礎研究・診断・細胞アッセイ・細胞治療・バイオ関連製品の製造、など多岐にわたる研究分野で重要な研究手法となっています[1]。 食品・医療・保健・消費財・工業材料など、ほとんどの産業分野で細胞培養や細胞アッセイが必要とされています。

細胞培養の用途が拡大するに従い、研究機器メーカーからは、培養容器・培地・培養用添加物・試薬・抗生物質などの消耗品や、細胞の分離・操作・増殖・特性評価のための機器、さらには研究・製造用途向けに作製された特殊な細胞なども供給されるようになっています。

細胞培養は、「プロトコル通りにやればとりあえずできる」などと簡単に考えられがちですが、実際はそうした単純なものではありません。

細胞には命があり、一つ一つが遺伝情報を持ち、代謝を行っています。細胞培養では、たとえ経験豊富な細胞生物学者であっても予想外の問題が発生することがあり、多かれ少なかれ失敗が起きるものと考えておかなくてはなりません。

細胞培養の失敗原因を調べるとき確認すべきこと

細胞培養が失敗する原因は主に二つあり、培養条件が適切でないか、細胞自体に問題があるか、どちらかであることがほとんどです。

細胞培養で問題が発生した際は、まず第一に、培養プロトコルが守られていたかどうか確認し、各手順のタイミングや時間間隔についても十分に再確認する必要があります。
第二に、試薬や実験器具など細胞と接触する可能性のあるものすべてが手順どおりに準備されていたかどうかを再確認します。

第三に、培地・培養用添加物・フィードといった重要な成分が前の培養時と変わっていないか確認します。同じメーカーの同じ培地を使っているだけでは、成分が同じとは言えません。特に動物由来のウシ血清アルブミン(BSA)などの成分は明確ではなく、製造バッチごとに成分が異なる可能性があるため[2] 、一貫性を保つことは重要な課題です。培地メーカーの多くは、血清に由来しない培地や、成分を化学的に特定できる培地を開発し、従来の培地からの転換を図っています[3] 。現在バイオ関連の製造業では、一貫した培養環境を保てる製品が広く用いられ、研究開発の現場でも採用されています。

培地に含まれる金属や無機質の含有量の変動も、細胞の増殖に影響を与える原因となります。金属は酵素反応を触媒したり阻害したりする可能性があり、金属の含有量が変動すると、培養細胞の増殖速度が変化したり、細胞死が引き起こされるおそれもあります[4] 。培地メーカーは多くの場合、無機質の成分分析表を表記していますが、ここに記されているのは代表的な金属濃度のみで、微量金属が記載されていない場合もあります。もし、使われた培地が前回と同じバッチやロットであれば、金属含有量の変動は問題にならないと考えられます。

コンタミネーションの発生源を無くすために

コンタミネーションには、微量金属など化学的成分の混入、微生物の混入による培地や培養細胞の汚染、細胞株がコンタミネーションを起こしている場合など、さまざまな様態があります[5] 。コンタミネーションは細胞培養の主な失敗原因であり、原因特定が最も難しい問題の一つです。

たとえ微生物のコンタミネーションが発生していると判明しても、発生源はあまりに多く、その特定はほぼ不可能です。培養容器や培養機器、作業スペース、培地や培養用添加物、そして人間など、細胞と接触するほぼすべてのものがコンタミネーションの発生源となり得ます。

グローブボックス・バイオハザード対策用キャビネット・ダクトレスドラフトチャンバー・インキュベーターなど、細胞培養に関連する機器はコンタミネーションを起こす微生物の増殖にも適しています。そのため、各メーカーは機器の設計の際に、清掃しやすい形にしてカビや細菌の生息域を無くしています[6] 。また、バイオハザード対策用キャビネット等の作業スペースは、ステンレスや抗菌樹脂などの清掃が容易な材料で作られています。こうした機器の中には、高温・紫外線(UV)・過酸化水素(H2O2)除染システムなど、除染のための仕組みを備えているものもあり、夜間や週末など、機器が使用されない時間帯に除染を行うよう設定できます[7]

こうした機器で作業する際は、コンタミネーションを防ぐためにも、扉の開閉回数を最小限にしなければなりません。もし、インキュベーター器内でのコンタミネーション発生が疑われる場合は、扉や作業動線上を特に清浄する必要があります。

マイコプラズマには注意が必要

細胞培養の失敗原因となる汚染微生物の中でも、マイコプラズマには特に注意が必要です。もしマイコプラズマのコンタミネーションが発生した場合は、実験が失敗するというだけでなく、事業全体が閉鎖に追い込まれるおそれもあります[8]

マイコプラズマは、既知の細菌の中で最も小さく、細胞壁を持たない、単純な微生物です。その大きさは50~300 nm程度で、光学顕微鏡では簡単には見ることができません。そのため光学顕微鏡などを使った目視による検査では、ほぼ検出されません。

マイコプラズマは、他の汚染物質と同じような経路で混入しますが、主な発生源は細胞株自体です。細胞株によっては、最大で85%の細胞が感染していることもあります[9] 。感染がないか定期的に培養細胞を確認し、無菌操作を正しく行うことで、マイコプラズマによるコンタミネーションのリスクの大部分を無くすことができます。培地やフィードの特に動物由来成分について、全成分を確認することも有効な対策になります。

マイコプラズマのコンタミネーションが発見された際には、研究室全体で除染を行う必要があります。扱っている細胞が希少なものである場合には、抗生物質処理で細胞を回収することもあります[10]

細胞株の信頼性も大きな課題

最後にお伝えする細胞培養の失敗原因は、「細胞株そのものの信頼性が低いこと」ですが、これは軽視できません。上でも述べたように、冷凍と解凍も含めた細胞の正しい保存方法を守ることや、培養プロトコルに沿って正しい手順で培養を行うことが、まずとても重要です。細胞の増殖速度はさまざまですが、対数増殖期であるか定常期であるかにかかわらず、培地中に含まれる生細胞が少ないほど、増殖曲線は緩やかになることも留意しておく必要があります。

細胞株の信頼性が低いと、科学的な再現性も危うくなってしまいます[11] 。たとえ当初の汚染細胞数はわずかでも、汚染微生物は短時間で増殖し、培養細胞を損なうことになります。遺伝学的解析のコストが急速に低下しているおかげで、商業的に販売されている細胞株のほとんどは、細胞株の分析がなされており、分析報告書も添付されています。他の研究グループから細胞を入手する場合もあり得ますが、そうした際も提供者に細胞株のデータを示してもらうことが大切です。

まとめ

細胞培養は、多くの産業における研究・開発・製造などの過程で必須の手法です。細胞培養を成功させるためには注意すべき点が多数あり、少しの油断から培養が失敗してしまうこともあります。プロトコルをきちんと守ることで、細胞培養の成功確率が上がり、失敗した際も原因の特定に役立てることができます。

PHCbiについて

私たちの新しい事業ブランド「PHCbi」における「bi」は、「Biomedical(生物医療)」を表すとともに、弊社の強み・哲学である「Biomedical Innovation(生物医療における革新)」を表すものです。私たちは、1966年の薬用保冷庫1号機の発売以来、「Sanyo」「Panasonic」両ブランドにおいて、その技術力を駆使し、高品質で信頼性の高い製品・サービスを創造し、ライフサイエンス分野や医療業界のお客様の期待に応えるべく努力してきた長い歴史を持っています。より詳細な情報は "PHCbiについて"をご参照ください。

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