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この記事は、株式会社フェアワーク”健康経営のすすめ”より許可を得て転載しています
皆様はプレゼンティーズムという言葉をご存じでしょうか?
ここ数年で健康経営に取り組む多くの企業がこのプレゼンティーズムに注目し、健康経営の成果を測る目標の1つにしています。今回はこのプレゼンティーズムとは何か書かせていただきます。
健康経営指標としてのプレゼンティーズム
プレゼンティーズムとは
皆様の中には昨年からテレワークを始めた方もいらっしゃると思います。私も慣れない自宅の机と椅子で仕事をしていると肩こりや腰痛に悩まされています。痛みのせいで集中力が落ちたり、キーボードをたたくスピードも心なしか落ちているように感じます。このように皆様も病気で休まずとも心身の不調でパフォーマンス(生産性)が低下する体験をされたことがあるのではないでしょうか。実はこれがプレゼンティーズムです。かしこまった表現をすると「健康の問題を抱えつつも仕事(業務)を行っている状態」となり、プレゼンティーズムによって生産性の低下や労働コストの増加が発生し、将来的には健康問題が深刻化しアブセンティーズム(欠勤)に繋がるリスクがあります。この”健康の問題を抱えている状態”は病名のある深刻なものから二日酔いや睡眠不足、先ほどの肩こりなど身近な症状まで多岐にわたっています。このように身近な症状を意識して考えるとプレゼンティーズムによる損失は日常にあふれていると感じられるのではないでしょうか。
プレゼンティーズムによる損失について
ではこのプレゼンティーズムによってどのような損失が生まれているのかをご紹介します。
東京大学の研究によればプレゼンティーズムによる損失は日本全体で19兆円と言われています。社員1人当たりに換算すると年間30万円となり、従業員数1,000名の企業で試算すると単純計算で年間で3億円の損失となります。これは非常に大きな数字だと感じられるのではないでしょうか。下記図は就業者の健康関連のコストの割合を示したグラフですがプレゼンティーズムによる損失は欠勤による損失(アブセンティーズム)や医療費を大きく上回り最大のコスト要因となっています。このように企業のコストという面でもプレゼンティーズムは影響度が大きく削減すべきものととらえられています。
健康経営の目標としてのプレゼンティーズム
企業にとってプレゼンティーズムが非常に大きなコストであることはお伝えいたしましたが、経済産業省もこのプレゼンティーズムを健康経営の最終的な目標指標の一つとしてとらえています。そもそも、健康経営とは企業の経営課題解決や成長を目的として実施されるものとされていることはご存じでしょうか。その理由はこのプレゼンティーズムを意識すれば分かりやすいと思います。例えば健康経営のための施策として”運動促進プログラム”に取り組むとします。運動促進による血行の改善や筋肉増加により肩こりや腰痛の軽減や集中力の増加などの効果が発生します。すると肩こりや腰痛などの改善=健康の問題を抱えつつも仕事(業務)を行っている状態の改善=プレゼンティーズム損失の改善へと繋がるのです。このように健康経営への投資、健康投資の効果を測るうえでプレゼンティーズムは重要な指標になるとともに企業の経営課題解決に直結するため近年注目度が急速に高まっているのです。
プレゼンティーズム測定方法の歴史
ではどうやってそのプレゼンティーズムを測るかですが、実は測定方法は1990年代には開発が始まっています。プレゼンティーズムは客観的に測定することが難しいため、信頼性や妥当性の検証について様々な研究が行われ、現在、世界的に使用されている測定方法としてはWHO(世界保健機関)によるHealth and Work Performance Questionnaire(WHO-HPQ)があります。
WHO-HPQはハーバードメディカルスクールが作成したもので、信頼性や妥当性に関する検証が蓄積された既存研究の集大成と言えます。しかし、この測定方法にも主観的な質問項目であるため測定効果に幅があるという課題があり、特に日本人の労働者に向けて調査を行う際に回答に偏りがあることが分かっています。WHO-HPQ版を用いた日本での調査結果は平均値58%となっています。また回答は50%付近に集中しています。
日本人の生産性は低いという声は色々なところから聞こえてきますが、それでも42%もの生産性が失われているというのイメージがしづらいですよね。これは日本人の国民性によるものと推測されます。WHO-HPQのように絶対評価の聞き方をしてしまうと日本人は中央値を選んでしまう傾向があるようです。そこで日本人に適したプレゼンティーズムの調査方法が必要と開発されたのが東大1項目版です。こちらは東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットが開発した測定方法で日本人に適した質問となっているうえ質問数が1問と少ないため回答者の負担なく毎月のコンディションを取得しやすいというメリットがあります。下記の図2が東大1項目版によるプレゼンティーズム損失割合の分布で平均値は85%となっています。
健康関連総コストに占めるプレゼンティーズムのコスト割合の研究を鑑みてWHO-HPQ版よりも東大1項目版の調査の方が妥当性が高いと東京大学の研究ではされています。また、WHO-HPQ版と東大1項目版は質問の文言の差異はありますが実際に聞いている内容に大きな差異はありません。何が言いたいかというとこのような従業員サーベイは質問の細かい文言によって回答の結果が大きく変わるということです。適切に調査を実施するためにも、また他社との比較を実施するためにも研究によって信頼性や妥当性が検証された調査を実施することが重要です。
まとめ
プレゼンティーズムについての理解を深めていただく事はできましたでしょうか。健康経営の成果を測るうえでプレゼンティーズムは非常に重要な指標となっています。社員の回答負担が少ない東大1項目版を用いて調査することで、組織のプレゼンティーズム損失割合をリアルタイムで把握し、適切な対策を講じることができるようになります。また、今回は経営的側面からの話になりましたが、社員1人1人が健康で活き活きとはたらくためにも重要な指標ですので、この記事をみて少しでも関心をもたれましたら職場のプレゼンティーズム改善への取組をスタートしていただけますと幸いです。