目次
診療報酬とは?
診療報酬は保険医療機関(以下、単に「医療機関」といいます。)の収益源のため、その仕組みや計算方法について理解しておくことが大切です。まずは、診療報酬の基本から詳しく紹介します。
診療報酬の基本
診療報酬とは、医療機関が行った診療や検査、治療などの医療行為の対価として公的医療保険から支払われる報酬です。診療報酬は技術やサービスの評価である医科診療報酬・歯科診療報酬・調剤報酬と、物の評価である薬価・材料価格に分けられます。
厚生労働省告示により公的医療保険の対象となる診療行為の範囲や点数が定められており、1点の単価は10円として計算します。また、本稿では詳しく触れませんが、個別の診療報酬算定にあたっては、配置人員や体制、設備などの施設基準を満たす必要があります。
行った医療行為を積み上げて1点10円で計算した合計額のうち、医療機関は1~3割(年齢や所得で異なる)の自己負担分を患者さまから受け取り、合計額から患者さまの自己負担分を差し引いた残りの額を、審査支払機関を通して保険者から受け取ることになります。
診療報酬が医療機関に支払われる仕組み
診療報酬の支払方式には、次の2つがあります。
・出来高払い方式
・包括払い方式
出来高払い方式は、診療で行った検査・注射・手術などの医療行為に応じて報酬が決まる仕組みです。一方、包括払い方式では、国が定めた診断と処置の組み合わせに基づいて定額の報酬が支払われます。日本では出来高払いが原則ですが、外来の一部、入院においても包括払いになっている部分もあります。
患者さまの自己負担額を除いた診療報酬は、診療日が属する月の翌月10日までに医療機関が審査支払機関に請求することで、審査支払機関が同月25日までに審査を行い、審査完了の翌月10日までに保険者に請求されます。ここで注意しておきたいのは、医療機関の請求先は保険者ではなく、審査支払機関だということです。保険者から審査支払機関を介して医療機関へ診療報酬が支払われるため、自己負担額を除く診療報酬は、診療を行った翌々月に受け取る仕組みになっています。
診療報酬の計算方法
診療報酬の計算方法や計算例をご紹介します。
診療報酬では点数が決められている
診療報酬の計算には、医療行為ごとに定められた点数を使用し、「1点=10円」として計算する仕組みです。点数については、厚生労働省保険局が運用する診療報酬情報提供サービスで検索することもできます。
たとえば、初診料288点だと、「288点×10円」で2,880円が診療報酬となります。なお、「1点=10円」の計算方法や診療報酬点数は全国一律です。
診療報酬点数は本でも確認できますが、診療報酬改定の度に本を買い直すことになるため、診療報酬情報提供サービスを利用した方がよいでしょう。
診療報酬の種類
診療報酬には、基本診療料(初診料、再診料、入院基本料等)や特掲診療料(医学管理料、在宅医療等)があります。前者が基本的な診療行為の費用を一括して評価したもの、後者は検査や投薬など、診療行為に対して個々に点数を設定し、評価を行うものといえます。次に一例を示します。
・初診料……医療機関をはじめて受診した際にかかる費用です。ただし、治療中に患者さまの自己判断で受診を中止し、1か月以上経過してから再度受診された場合は、前回と同様の病気や症状でも初診料を請求します。
・再診料……同じ病気や怪我で継続して受診された患者さまに請求します。
・乳幼児加算……6歳未満のお子さまが受診された際に請求します。
・時間外加算……医療機関が定める診療時間以外の時間帯に受診された患者さまに請求します。
診療報酬の計算例
実際に、診療報酬を計算してみましょう。インフルエンザを疑い受診した患者さまに対し、インフルエンザの検査と処方箋の発行をした例です。
初診料…288点
機能強化加算…80点
インフルエンザ・ウイルス抗原定性……139点
鼻腔・咽頭拭い液採取…5点
免疫学的検査判断料…144点
処方箋料(その他)…68点
一般名処方加算1…7点合計731点
診療報酬総額…731点×10円=7,310円
患者さまの自己負担額(3割負担の場合)…731円×3=2,190円(10円未満は四捨五入)
医療機関が保険者から受け取る金額…7,310円-2,190円=5,120円
▽参考記事
日本医師会『なるほど!診療報酬』
診療報酬は2年に1度改定される
診療報酬のうち、医科診療報酬、歯科診療報酬、調剤報酬は原則2年に1回、薬価は1年に1回の頻度で改定されます。内閣が医療費の総額(改定率)を決めたうえで、国の審議会が策定した基本方針に基づいて「中央社会保険医療協議会(中医協)」が具体的な個別項目の審議を行います。
中医協は、診療側委員、支払側委員、公益委員の三者で構成されています。中医協は、診療報酬について厚生労働大臣から諮問され、答申を行う諮問機関です。前回の改定による影響の検証をはじめとしたさまざまな議論を重ねて診療報酬点数の見直し内容を審議します。
診療報酬改定では、病院経営収支調査や医療経済実態調査、医療品価格調査、特定保健医療材料・再生医療等製品価格調査のような医業経営指標のほか、経済指標として賃金指数や物価指数なども踏まえて審議を行います。
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診療報酬は審査支払機関へ請求する
診療報酬は、保険者ではなく審査支払機関へ請求します。請求に必要な診療報酬明細書(以下、レセプト)や提出先、期限などについて詳しく見ていきましょう。
診療報酬の請求にはレセプトが必要
レセプトとは、患者さまに対して行った医療行為や傷病名などの詳細を記載したデータのことです。入院・外来・歯科・調剤の4種類があり、行った検査や治療、調剤の内容、点数などが記載されています。
レセプトを医療機関が審査支払機関を介して保険者に提出することで、患者さまの自己負担額を除く部分の診療報酬を受け取ります。
レセプトは、患者さま・診療月・入院・外来・調剤別に作成します。なお、患者さまが1つの医療機関で複数の診療科を受診して院外処方を受ける場合、調剤のレセプトは1件にまとめますが、歯科については別で作成します。
レセプトの提出先
診療報酬は保険者に請求しますが、レセプトの提出先は保険者ではなく審査支払機関です。審査支払機関には、「社会保険診療報酬支払基金」と「国民健康保険団体連合会」の2つがあります。診療報酬請求において第三者機関を介する理由は、審査および支払業務の効率化と審査の公正性を維持するためです。
審査支払機関内の「診療担当者代表」「保険者代表」「学識経験者」の3者で構成される審査委員会がレセプトを審査し、問題がなければ保険者へと請求します。もし、審査で不備や不審な点がみられた場合は、レセプトが医療機関に戻されたり(返戻)、診療報酬点数が減らされたりする可能性があります。
審査項目は次の通りです。
・記載事項……記載漏れ、保険者番号の不備などの確認
・診療行為……診療行為の名称や回数、医学的に適しているかどうか、算定要件などの確認
・医薬品……医薬品の名称や適応、用法用量、医学的に適しているかどうかなどの確認
・医療材料……医療材料の名称や用法・使用量、医学的に適しているかどうかなどの確認
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診療報酬請求の手順
診療報酬は、レセプトを作成し、内容に不備がないことを確認したうえで審査支払機関に請求します。診療報酬の請求の手順について、見ていきましょう。
1.電子レセプト請求の準備
電子レセプト請求とは、レセプト電算処理システム(レセプトコンピューター)によってオンラインまたは電子媒体で審査支払機関にレセプトを提出することです。従来は、紙のレセプトで請求していましたが、効率化の観点から現在はほとんどの医療機関が電子レセプトで請求しています。
レセプト電算処理システム(レセプトコンピューター)の導入は専門業者に相談しましょう。
2.診療情報をレセプトコンピューターに入力する
日々の診療情報をレセプト電算処理システム(レセプトコンピューター)に入力します。
3.入力内容のチェック
審査支払機関への請求前に、レセプトコンピューターに入力した診療情報が正しいかどうかの確認が必要です。1日単位、1週間単位で事務スタッフが確認するなど、チェック方法は医療機関によって異なります。医事業務においてこれを「レセプト点検」などと言います。
4.医師によるダブルチェック
レセプトに記載した傷病名や医療行為、処方薬などに誤りがみられた場合は、医師によるダブルチェックを行います。誤りの有無に関係なく、日頃からスタッフと医師でダブルチェックを行うことも1つの方法です。
5.翌月10日までに審査支払機関へ提出
診療日が属する月の翌月10日までに、レセプトと診療報酬請求書(その月のレセプトを集計した一枚の書類)を審査支払機関に提出します。その後、審査支払機関による審査を経て保険者へ請求され、保険者側での審査でも問題がなければ、審査支払機関を通じて医療機関へ診療報酬が支払われます。
診療報酬の請求ではレセプトの適切な作成・提出が必要
診療報酬は、行った医療行為を「1点=10円」で計算し、翌月の10日までに審査支払機関に請求します。その審査で不備などがあると、前出のようにレセプト返戻や診療報酬の減点につながりかねません。
そのため、審査支払機関へ提出する前には、レセプトに不備がないかを入念にチェックしましょう。一方で、膨大な数のレセプトを一切の不備なく作成するには、一定の時間的コストや人件費がかかるため、外部の専門サービスを利用することも検討しましょう。
メディコムでは、開業を目指す医師向けのサポートも実施しています。レセプトの作成・請求に係る作業の効率化や不備のリスク軽減、経営の安定化についてなど、ぜひ一度ご相談ください。
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