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Q1.対象者と信頼関係を構築することは、保健指導にどのような効果をもたらしますか。
A.信頼関係といっても、家族や個人的なお付き合いとは違った関係性の構築が必要です。
担当となった保健指導者に自分の考えや生活の情報をどこまで話してよいのか、この人の言うことを信じていいのかなど、対象者も迷いながらあなたと対面していることと思います。
『標準的な健診・保健指導プログラム』によれば、「特定保健指導の目的は、対象者が自らの健康問題に気付き、自分自身で解決方法を見いだしていく過程を支援すること」。健診データを活用しながら、本人自身が健康問題を実感できるように説明したり、どのように感じているのか、どのように取り組んでいるのかを確認しつつ、生活上の制約の中で解決できる方法を考えていきます。
結果説明が「なるほど、そうだったのか」と思えるような専門性の高い内容であれば納得感が高まりますし、本人の問題意識や知りたいこと、疑問に対して的確なフィードバックがあれば、考えの整理につながり、自ら解決法を見つけようとすることになるでしょう。
「この人なら話しても安心だ(守秘義務を守ってくれる)」、「この人の言うことならやってみる価値がありそうだ(自分のことを考えて、専門家として適切な助言をもらえる)」と思ってもらえれば、その人に適した目標設定に近づきます。思ったようには行動できなかった場合にも、隠す・ごまかす(非難されたくない)ではなく、より生活実態に根差した解決法を一緒に考えることができれば、行動変容をあきらめずに済みます。
このように、保健指導においては(専門職としての)信頼関係確立が最初の重要なステップであると思います。
Q2.「信頼関係を構築する要素」は実践によってスキルを上げていくことが必要かと思いますが、実践後に振り返る際のポイントなどを教えていただきたいです。
A.とはいえ、知識も経験も足りない、と感じる保健指導者が多いのではないでしょうか。
保健指導の現場で役立つスキルを磨くには、
1.事前準備 | 対象者のデータや生活習慣からどのような情報提供が必要かを考える。 説明に必要な資料を準備する。 |
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2.保健指導の場面 | 相手の言動から、相手が関心を示しているのか、理解しようとしているのかを考えながら、 展開していく。相手の疑問を聞き取る。 |
3.振り返り | 会話がかみ合ったか、面接前と比べて表情が明るくなったか(やる気が高まったか)、 今日から・明日からできることが見つかったか |
4.弱点補強 | こう説明すればよかったかな、と思ったことについて資料等を確認する。 疑問に答えられなかった場合には、調べて返答する。 |
などを繰り返しトレーニングすることで、スキルは確実に高まります。
保健指導のスキルは、対象者との相互作用を活用していくことで向上させていくことが可能なのです。例えてみると、スポーツや楽器、語学でも方法論の専門書を読んでもうまくできるわけではないですよね。実際に体を動かして、結果を振り返って、修正していくプロセスをなんども繰り返すことで上達していきます。まさに実践と振り返り・対策が保健指導を高めることにつながります。
Q3.面接のヒント(SPIKES)において、「I:Invitation」の対象者の意思を引き出すことに苦戦するケースが多々あります。対話に後ろ向きな方へのアプローチはありますか。
A.対話に後ろ向きな方の気持ちも理解できるような気がします。保健指導は、そもそも心浮き立つ楽しい話が聞ける場とは思われていないのではないでしょうか。「生活習慣に立ち入られるのは嫌だ」、「また同じことで説教を受けるのか」など、不安な気持ち、否定的な気持ちを持ちながら、皆さんの前に座っているのかもしれません。
この重苦しい気持ちから、「やっぱり健康は大切だ」、「そのため、あなた(保健指導者)の話を聞きたい(Invitation)」へ転換していくためには、Perception(対象者がどう考えているのか、受け止めているか)を保健指導者として知る段階が重要な役割を果たします。これまで健康のためにどんな努力や工夫をしてきたのか、健康問題で不安なことはないかなど、相手に関心を持ち、相手にとって必要な情報を提供したい、という気持ちを表現することが大切と思います。
▽前回のコラムをご覧になりたい方はこちら
https://www.phchd.com/jp/medicom/park/idea/healthmanage-point-06
▽関連資料
『対象者と信頼関係を築くためのスキルの習得』
https://go.medicom.phchd.com/wellsportstep_seminar_material_20240307(PDF)