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医師には「医師国保」という選択肢がある
勤務医として働いていると、健康保険料は自動的に給与から天引きされます。そのため健康保険の仕組みや保険料について意識したことなどないという医師も少なくないでしょう。しかし、開業医になると勤務先任せというわけにはいきません。自分で健康保険の加入手続きをして保険料を納める必要があります。
個人事業主が加入する健康保険として主な選択肢となるのが、市区町村が管理している国民健康保険、または地域や職種ごとに構成される健康保険組合で、医師にとっては医師国民健康保険組合、いわゆる医師国保です。
医師国保は各都道府県の医師会に所属する従業員5人未満の個人開業医とその家族、従業員が加入でき、また医療職以外の従業員も、労働時間などの一定要件を満たせば加入することが可能な健康保険です。
医師国保の保険料が2024年4月に大幅アップ
※地域によって、保険料や設定に差があります。
開業医の多くが加入する医師国保の最大のメリットは、国民健康保険と比べて保険料が割安だからといわれてきましたが、2024年4月大幅にアップしました。その内容を詳しく見ていきます。
医師国保には第1種から4種まであり、医師が加入しているのが第1種組合員。この保険料が月2万7500円から3万4500円へと7000円アップしました。年額にすると33万円から41万4000円への上昇です。後期高齢者支援金保険料を加え、健康保険部分の年間保険料は47万4000円となります。
合わせて40歳以降が支払う介護保険料も月額500円アップし、年額にすると6万6000円から7万2000円に増えました。合計すると医師1人の年間保険料は9万円の負担増で、保険料総額は54万6000円となります。
前回の値上げは2018年でしたから、6年ぶりの値上げです。医師国保は保険料と補助金を財源に運営されていますが、高額化する医療費や医師国保加入者の平均年齢が上がり、保険組合の負担が増えていることから、今回の値上げとなったようです。
勤務医が加入する「協会けんぽ」より安い保険料
※1 第1種組合員(医師)の場合
※2 報酬月額が上限額の場合
※3 第2号被保険者(40歳以上65歳未満)の場合
※4 令和6年度、東京都の場合
※5 第2号被保険者(40歳以上65歳未満の場合)
医師国保の最大のメリットは、収入額に関わらず保険料が一定だということです。勤務医の多くが加入する協会けんぽの場合、保険料率は一定ですが収入が多ければそれだけ保険料は高くなり、給与が高い医師の場合は、協会けんぽの上限額となるケースが多いようです。協会けんぽの上限額の基準となる月給は135万5000円。本人負担保険料は月6万9361円(東京都)で年間保険料総額は83万2332円、介護保険料を加えると、年間96万5772円となり、医師国保の年間保険料54万6000円と比べると割高なのがわかります。
ちなみに、自営業者などが加入する各自治体の国民健康保険はどうでしょう。国民健康保険の保険料は前年所得によって決まりますが、医師の場合、たいていは扶養家族分を含めた上限額、介護保険料を合わせて、年106万円を支払うことになります。医師国保はもちろん、協会けんぽと比べても割高です。
医師国保、国保、協会けんぽの年間保険料を比較したのが下表。医師国保が大幅に上昇したとはいえ、他の健康保険と比べるとかなり低く抑えられていることがわかります。
医師国保は扶養する家族の保険料も負担。大家族は注意
ただ医師国保にも不利な点はあります。被扶養者という制度がないため、同一世帯の家族全員(ほかの健保に加入している家族以外)が医師国保に加入する必要があるということです。同一世帯の人数が増えると、その分保険料も増えます。これに対して協会けんぽでは、条件を満たす家族は保険料負担なく被扶養者として加入できます。
両者を比較すると、例えば被扶養者が配偶者と子ども2人(いずれも中学生以上・40歳未満)の場合、医師国保は保険料が年間45万円<(保険料9万円+後期高齢者支援金保険料6万円)×3人分>加算され、介護保険料なども加えた合計額が年間99万6000円となります。一方、協会けんぽでは96万5772円。協会けんぽが若干安くなります。
勤務医からの転身直後ならば、ちょっとした裏ワザがある
期間限定ではありますが、健康保険料を安くできる選択肢があります。それは、勤務医時代の健保を「任意継続」する方法です。勤務医時代に協会けんぽなどの健保に2カ月以上加入し、退職翌日から20日以内に申請すると、退職後も2年間は健保に加入し続けることができます。
上図で見ると協会けんぽよりも医師国保の方が安いと思うかもしれませんが、任意継続は退職時の標準報酬月額を上限30万円として算出するため、保険料は年41万6880円(3万4740円/月)。加入者時代の報酬が多い医師の場合、保険料を全額負担(健康保険は事業主が50%負担)しても医師国保より安いということになります。というわけで退職後、2年限定で考えると、任意継続が一番有利なのです。
健康保険料の値上げは、医師国保に限らず企業の健保をはじめ、どこでも起こっています。扶養家族分の負担を考慮しなければ、基本的に医師国保の有利さに変わりはないといえそうです。
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