医療コミュニケーション「傾聴スキルをアップ」
疾患や症状に合った薬の選択と与薬、体位変換による褥瘡予防など、私たち医療者は患者さんの心身の不調を回復へと導くために、キュア(治療)やケア(看護)を提供します。そうしたキュアやケアの質を高めるうえで医療者に求められるものというと、皆さんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか? 例えば薬剤師ならば患者さんからの問い合わせに的確に回答することができる薬剤に関する豊富な知識、看護師ならば患者さんの症状に合わせた食事介助術などが挙げられるかもしれませんね。そのような各医療職固有のものとともに、職種の違いを問わず必要とされるものがあります。医療者と患者さんの間で交わされるコミュニケーション能力、すなわち“医療コミュニケーション能力”です。
医療コミュニケーションは、日常のコミュニケーションと同様、「話すこと」と「聴くこと」から構成されています。コミュニケーションというと、つい話すことに心が奪われがちですが、医療全体の流れにおいては、患者さんが発する言葉に耳を傾けること、すなわち傾聴することにも十分注意を払う必要があります。
私が病院勤務の看護師時代、夜間巡回で術後の患者さんのベッドサイドに寄り添った際のこと。症状などについて語る患者さんの言葉に私は耳を傾けながら、薄暗闇の中、目を凝らし、看護記録を付けていました。すると、しばらくして「あんた、私の話ちゃんと聞いているの!? 書くことにばかり集中して、ろくに視線も合わさずに! それに『そうですか』『お辛いですね』の繰り返しで、私の痛みがどんな痛みなのか、何が辛いのか、本当にわかっているの!」と患者さんのお叱りの言葉が……。患者さんの指摘はもっともで、私は薄暗い中での看護記録の記入に気を取られ、アイコンタクトが不十分なものとなってしまったのです。また、患者さんの話に耳を傾けていることを表意すべく、「そうですか」「お辛いですね」と口にしたものの、患者さんには機械的な反応と映り、「本当に聴いているのかどうかわからない」との印象も与えてしまいました。
この一件の後、私は患者さんの話に耳を傾ける際、以前にも増してアイコンタクトに気を配るとともに、「○○なのですね」「○○がお辛いのですね」と患者さんが話してくれた内容(=○○)について、しっかりと理解していることを表意するよう努めました。
傾聴は“耳を傾けること”が第一義であることは言うまでもありません。しかし、医療コミュニケーションにおいては、私の経験が示すように、それだけでは不十分な場合があります。すなわち、アイコンタクトのような“非言語的な傾聴スキル”、患者さんの話した内容をしっかりと理解していることをメッセージとして発信する“言語的な傾聴スキル”を交えながら、耳を傾けることが求められるのです。傾聴をテーマとしたセミナーや書籍は数多く存在します。より良いキュアやケアを患者さんに提供するために、皆さんもそうしたものを上手く活用して、ぜひ傾聴スキルを向上させてください。