医療コミュニケーション「注意を払うべき“話し言葉”」
医療者と患者さんの間で交わされる“医療コミュニケーション”。患者さんの状態を的確に把握したり、治療情報を患者さんに正確に伝えたりするために、医療者サイドから言葉を発する機会は少なくありません。そうした際に使う“話し言葉”の中には、注意を払うべきものが幾つかあります。
例えば質問形式。質問形式は大きく分けると、「どんな」「どのように」など、質問をされた人が自由に答えることができる「オープン・クエスチョン」と、「○○ですか?」など、「はい」「いいえ」といった限られた選択肢から答える「クローズド・クエスチョン」の2つがあります。
病院勤務の看護師時代、私は入院患者さんの状態を把握しようと「お食事はどのくらい召し上がりましたか?」「体のだるさは昨日と比べて如何ですか?」と患者さん達に尋ねました。上記の区分に従うならば、患者さんに自由に答えてもらうべくオープン・クエスチョンを用いたのです。すると患者さん達から「事細かに答えるのが面倒だから、そういう質問やめてくれない」「堀さんの質問、毎回くどいよね」と思いも寄らぬ声が……。
そのような指摘を重く受け止めた私は、一転して「お食事召し上がることができましたか?」「体、だるいですか?」と、答えが限られるクローズド・クエスチョンを多用することに。ところが今度は「堀さんには自分の思っていることや状態を話しにくい」との不満が患者さん達から寄せられたのでした。
患者さんに質問をする際、オープン・クエスチョン、あるいはクローズド・クエスチョンのいずれか一方に偏ると、上記のような事態を招く恐れがあります。読者の皆さんはお気付きかと思いますが、双方をバランスよく用いることが肝要です。
また医療用語も注意を必要とするものの1つです。私が医療コーディネーターとして病院探索のサポートをした患者さんが、ある時「食間」に服用する薬を処方されました。その際、医師と薬剤師から「食間」に関する説明は特になく、患者さんは食間を「食事中」と判断し、食事の最中に薬を服用しました。1週間後、その患者さんが再診を終えて薬を受け取る際、薬剤師に「お薬、食事と食事の間に飲まれていますか?」と尋ねられ、そこで初めて食間の正しい意味を理解することができたそうです。
このように私たち医療者がごく当たり前に用いる医療用語が、患者さんにとっては難解であったり、耳慣れないものであったりする場合があります。私はそうした現実を踏まえ、医療コミュニケーションをテーマとした医療者向けセミナーや研修会で講師を務める際、「患者さんにとって医療用語は『外国語』と同じなので、できるだけ使わないように。使う際には丁寧な説明を」と指導しています。
良好な医療コミュニケーションを実現する上で、医療者の話し言葉は重要な鍵を握っています。例に挙げた質問形式や医療用語はじめ、普段何気なく使っている話し言葉にも注意を払うようにしましょう。