目 次
1. クリニックにおけるスタッフ教育の重要性とは?
独立してクリニックを開業する院長が、戸惑うことの一つがスタッフの人事や教育に関することです。
病院では未経験のスタッフがいきなり外来や病棟に配属されることはなく、人事・総務が採用後に病院勤務の基本的な教育をした上で、各部署に配置します。
しかし、クリニックではスタッフ教育は院長の責任です。スタッフが患者と接する機会も多く、その応対がそのままクリニックの評価になります。従業員満足度が患者満足度に直結することも少なくありません。
院長は、労働条件をよくすれば仕事のできるいいスタッフが採用できると考えます。しかしスタッフは、労働条件だけでなく働く環境や院長の考え方を知った上で「ここでどんな夢が実現できるか」を考えてクリニックを選びます。
このギャップを理解しないまま、スキルと労働条件だけでスタッフを採用すると入職後の教育が大変です。スタッフ教育は、クリニックの医療サービスの質に直結しています。経営への影響も大きいので、スタッフ教育の重要性を理解しておく必要があります。
●スタッフが辞めてしまう理由についてはこちらも参照ください。
クリニックのスタッフが辞めてしまう理由とは?
2. スタッフ教育のポイントとは?
スタッフ教育は、院長としてクリニックのあり方を明確にすることから始めます。
主な教育のポイントを5つあげます。
(1)理念の共有
スタッフ教育というより採用前に伝えておくべき最重要項目です。採用時に明示していなければスタッフ教育の最重要課題として扱います。院長がどんな患者様のためにどんな治療をどのような方法で提供するのか、この地域においてどのような価値を提供するのかを明確に示します。そして、求める人材像を明らかにします。採用してから教育するのではなく、価値観を共有できる人だけを採用することが大事です。
(2)院内ルールの周知
クリニックが安心して働ける場であるためには、就業規則やコンプライアンスなど、院内のルールを最初に共有します。身だしなみや言葉遣い、業務ごとの役割分担や行動指針などを周知します。
(3)技術・スキル向上
業務ごとに求められる技術・スキルを明確にします。入職前に必要な技術・スキルを明記し、入職後に取得可能な技術・スキルについて、取得方法やカリキュラムを決めておきます。
(4)業務オペレーションの見える化
クリニックの業務は、医療事務から看護、診療まで様々な業務の連携が重要です。スムーズに業務を行うためには、日々の患者対応だけでなく業務ごとの月次、年次の業務を把握し、業務フローの共有と業務ごとのマニュアルが必要です。
(5)マインド向上
院長の指示待ちではなく、自発的に働くスタッフが欲しいと望むならば、目的を明確にして、スタッフの精神面の成長、モチベーションアップやチーム力アップを目指す教育も意識して組み込む必要があります。
3. 具体的な教育の進め方
スタッフ教育というと、外部研修を受けるとか院内で教育カリキュラムを作ることを考えがちですが、前述のスタッフ教育の5つのポイントの多くは、教育というより日々のクリニック運営のなかで実施できることです。
具体的には下記の手順で行うと、効率よく進めることができます。
(1)業務フローの確認
スタッフ教育のスタートは、医療事務・看護・診察の院内の業務フローを書き出し、院内の仕事を理解することから始めます。
業務フローというと難しく感じるかもしれませんが、業務ごとに異なる色の付箋に仕事の内容をステップごとに書き出し、並べるだけです。自分の業務手順の確認だけでなく、院内の他の業務を理解してスムーズな業務オペレーションができるようになります。
日々の診療では、受付、案内、診察、会計の流れの中での患者応対の言葉や書類の受け渡し、PCへの入力、会計までを書き出します。
朝の開院準備、夜の閉院作業、月次、年次の仕事も同様に書き出します。
(2)年間スケジュールの作成
次に、年間スケジュールを書き出します。年次休暇や毎年の行事や医師会や地区の研修などがあれば、書き出します。
「(1)業務フローの確認」と「(2)年間スケジュールの作成」を院長と事務長など経営幹部で行うことで、1年後もしくは数年後のクリニックのあるべき姿をイメージし、設備投資や必要な人材の採用とスタッフの教育計画を具体的に考えることができます。
個人情報保護や接遇研修、リーダー研修などは、外部機関でもよく行っている研修なので、計画的に活用すると良いでしょう。
(3)目的・目標設定
スタッフ教育の5つのポイントについて、目的と目標を明確にします。教育カリキュラムとして行うものと、日々の業務の中で行うことを分けて考えます。
例えば、理念や院内ルールは、採用前後のオリエンテーションで示した後は、毎日の朝礼で確認したり、新年会や年次計画発表会など全スタッフが集まる場で話す機会を設けたりすることもできます。
(4)プリセプターの配置
新人教育では、2年目3年目の先輩をプリセプター(新人教育係)として、直接新人の日常業務の指導を担当させることをお勧めします。看護職の新人教育で一般的ですが、医療事務や医療専門職でも有効です。
先輩スタッフは、新人教育をすることで業務見直しやコミュニケーション能力アップにつながります。来年は教える立場になると思うと、教わる新人も、より積極的に学び、身に付けようと意識が変わります。
(5)教育カリキュラム・スキルマップ作成
新人用のカリキュラムと入職後に必要な技術・スキルを書き出したスキルマップを作ります。スキルマップは、項目ごとに、①できない、②指導を受けながらできる、③一人でできる、④指導できるの4段階でスキルの習熟度を図り、スキル向上を目指します。
●スタッフ研修と診療シミュレーションについてはこちらもご参照ください。
スタッフ研修と診療シミュレーション
4. スタッフの育成中に必須のアイテムは?
新人スタッフ育成中は、理解度の確認と業務上の不安を解決し意欲を高めるコミュニケーションが大事です。新人は、仕事を覚えるだけで余裕がないため、コミュニケーションを円滑にするための工夫が求められます。
(1)新人スタッフには日誌を書いてもらう
理解度確認と不安解消のため、新人スタッフ教育の進捗管理には、業務日誌もしくは週報を使うことをお勧めします。
必要な項目を新人が書きやすく、院長や先輩が読みやすくするため、定型フォームを用意しておくと良いでしょう。
主な項目例を示します。
- 日付、氏名、今日(今週)の目標・予定
- 今日(今週)学んだこと
- 指導者への質問
- 今日(今週)の振り返りと明日(来週)の目標
- 指導者のコメント
(2)教育に欠かせないツールとは
教育に欠かせないツールとして、業務マニュアルがあります。
業務マニュアル作りの秘訣は、完璧を目指さないことと指導するプリセプターに作らせないことです。
お勧めは、新人用のカリキュラムに基づき項目ごとのフォームを用意し、教わった内容について新人本人に記入してもらいます。内容をプリセプターと見直しながら正しく理解しているかどうかを確認します。修正したものを清書もしくはPCに打ち込みマニュアルとします。
5. 教育中のトラブルを避けるために
新人教育上のトラブルの多くは、コミュニケーション不足が原因です。
一つは、理念や労働条件、業務内容など採用前に伝えるべきことを正しく伝えていなかったこと、もう一つはコミュニケーションの取り方の問題です。
前者は、理念と院内ルールの周知で未然に防げます。後者は、院内では当たり前のことでも、新人にはわからないという前提で、どうすれば正しく伝わるか工夫することが大切です。
また、院内で使う言葉づかいが、ネガティブになりがちな組織では、ポジティブな表現に変えるだけで、院内の雰囲気が変わります。コーチングの手法ですが、院長やプリセプターがポジティブな言葉づかいを心がけるだけで、教育中のトラブルの大半は防げます。
●スタッフ間のトラブルについてはこちらもご参照ください。
スタッフ間のトラブルあれこれ
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