初期投資と運転資金
開業のための資金はどれだけ必要か?
「開業資金として想定しておくべき金額はどのくらいだろうか?」と、予算組みの際には多くの先生方が思案に暮れることと思います。一説には、戸建て開業で1億円以上、テナント開業ではその半分ほどと言われることもありますが、当然開業地の地価相場やご担当の診療科、見込まれる診療報酬などによってもその額は変動します。つまり“○千万円ぐらい用意しておけばOK”などと軽々に断言できるものではない、ということ。結局のところ、先生ご自身で各々のケースに応じた開業資金を算定していくしかありません。ですが「いったい何を手がかりに見当をつけていけばいいのか…」と仰る先生もいらっしゃるでしょう。そこで今回は、開業資金の考え方・捉え方についてお伝えします。未来のクリニック経営者としては、お金の話は避けて通れないもの。資金周りの基本的な枠組みをしっかりと整理して、間違いのない事業計画をお立てになって下さい。
初期投資と運転資金を別々に考える
開業資金を予算組みする場合、まずは「初期投資」と「運転資金」に分けて考えてみるのが原則です。初期投資とは“イニシャルコスト”とも呼ばれ、テナント入居(あるいは土地・建物購入)関連費や内装工事費、医療機器・備品関連費、広告宣伝費など、開業までにかかる費用が主となります。これに対し“ランニングコスト”の別名を持つ運転資金は、開業したクリニックを営んでいくのに必要な費用。テナント家賃や人件費、リース料や水道光熱費、福利厚生費や交際費などがこれに当たります。初期投資については、それぞれの業者からの見積りを合算していくことで比較的正確な金額をはじき出せますが、問題は運転資金です。診療報酬が支払基金から入金されるには、請求後約2ヶ月かかるため「運転資金は予想される支出の2〜3ヶ月分を用意すべき」との説があるのですが、果たしてそれで良いのでしょうか。
時間のギャップと損益のギャップ
たしかに2〜3ヶ月分の貯えさえあれば、診療日と報酬支払日の「時間的ギャップ」は埋めることができるでしょう。しかしこの考え方には、開業直後は支出が収入を上回ることが多いという「創業時特有の損益ギャップ」が考慮されていません。開業初月から黒字計上するクリニックばかりではないのです。経営が軌道に乗るまでは利益どころか持ち出しが発生するケースも多いため、運転資金を「黒字経営に至るまでに積み重なった赤字を補填する予算」と捉える必要があります。家賃や人件費、リース料などの固定費負担が大きくのしかかってくるクリニック経営ですから、開業後半年か遅くとも1年後には軌道に乗せたいもの。つまりそこから逆算し、月毎の収支計画表の予想赤字分を積算していかなければなりません(予測精度を高めるなら、入念なシミュレーションに基づいたより細かな損益計算が必要となります)。このように、開業資金のなかでも運転資金は開業直後の経営状態を左右する大切なコストです。時間のギャップと損益のギャップをきちんと勘案した上で、ある程度余裕のある金額に設定しておいて下さい。たとえ低収入の時期があろうとも「お金がない!」という逼迫した状況だけは避けられるはずです。
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