目次
保健所の立入検査とは?
医療機関への立入検査は保健所の重要な業務の一つです。医療法25条に基づき、医療機関が良質かつ適切な医療を担っているか監督するために行われます。
保健所の立入検査は医療機関の規模や属性によって異なりますが、一般的には開院時に行われ、その後有床診療所では概ね3年に1回程度、無償診療所では随時、病院では原則1年に1回の立入検査が行われます。ただし、安全な医療の提供ができているか疑わしい内部告発や患者からのクレームなどがあった場合は、臨時で立入検査をするケースも少なくありません。
医療機関の管理者は保健所の求めに応じて立入検査を受け入れる必要があります。特に開設許可申請を提出した後は実際の開設日までの期間に立入検査が行われるケースが多いので一定の対策が必要です。
ほとんどのクリニックが指摘・指導を受ける
保健所の立入検査というと少なからず抵抗がある管理者も多いでしょう。しかし、ほとんどのクリニックは立入検査で何らかの指摘や指導を受けているのが現状です。
「東京都福祉保健局医療政策部医療安全課の令和3年度の報告」によれば、立入検査を行った67医療機関の中で指摘を受けたのは44.8%、文書指導を受けたのは52.2%、口頭指導を受けたのは3.0%にのぼり、指摘や指導を受けなかった医療機関はありませんでした。
なお、指摘とは医療法に係る法令の不備の、指導は法令不備の中でも軽微なものや通知に対する不備などの改善を求めるものとなります。指導には文書指導と口頭指導がありますが、文書指導の方がより重大な不備の改善を求めるものです。
出典:「令和3年度 医療法第25条第1項に基づく定例立入検査の実施状況」(東京都福祉保健局医療政策部医療安全課)
(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kanri/kensakekka.files/R3hokokusyo.pdf)
立入検査のチェック項目は?
保健所の立入検査では、主に以下の項目がチェックされます。
- カルテ、処方箋などの管理や保存
- 届出、許可事項等法令の遵守
- 患者入院状況、新生児管理等
- 医薬品等の管理
- 職員の健康管理
- 安全管理体制の確保
- 医師や看護師等の数
- 診察室、手術室、検査室の構造や設備、清潔状況
- 給水施設、給食施設等の状況
- 院内感染対策の状況
- 災害対策
- 廃棄物処理、放射線管理の状況
それぞれ具体的にどのようなことがチェックされるのか、代表的な項目を見てみましょう。
スタッフ関係
医師、看護師、看護補助者、薬剤師、栄養士など一つの医療機関に必要な医療従事者数は標準数が定められています。保健所の立入検査では標準数と実際の医療従事者数に不足がないかチェックが行われます。不足している場合は、速やかに標準数に足りる人員を確保しなければなりません。
医療従事者の免許証がチェックされる場合もありますので、必ずコピーを保管しておくようにしましょう。
また、医療法上の注意点だけではなく開業するとスタッフを雇用する立場になるため労働基準法を遵守した対応も求められます。労働契約書の締結や労働時間設定なども法を守って行いましょう。
医療機器・医薬品などの管理体制
保健所の立入検査では医療機関内の医療機器や医薬品が適正に管理されているかチェックされます。
具体的には、麻薬と指定された薬剤は常に残数が確認できるように記録して鍵付きの専用金庫に保管していくこと、毒劇物と指定された薬剤は専用の鍵付き保管庫に保存しておくことなど法令に従って管理されているか評価されるため日頃から注意が必要です。
また、医療機器に関しては定期的な検査が行われているか記録を残しておく必要があります。
個人情報の取り扱い
医療機関が扱う患者の診療情報は非常に重要な個人情報のため、取り扱いには細心の注意を払うことが求められます。
保健所の立入検査では、カルテや処方箋の管理体制などについてチェックが行われます。電子カルテを導入している場合にはセキュリティ対策もチェックされますので、事前に患者の個人情報の管理体制はしっかり確立しておきましょう。
また、クリニックとして患者の個人情報を保護できる体制を構築しているかもチェックポイントとなります。具体的にはスタッフへの個人情報保護の研修を行うなどの体制を整えておく必要があります。
施設設備・文書・職員などの管理体制
給水施設や給食設備などの状況、各種文書の記録や管理体制、職員の健康管理なども保健所の立入検査でチェックされる項目です。
施設設備に関しては構造に法的な不備はないか、清潔に保たれているかなどがチェックされます。また、各種文書の記録や管理に関してはクリニック開設届、カルテ、各装置の備付届、検査記録、院内感染や医療安全に関する指針、処方箋の控え、職員の研修記録の有無などがチェックされます。指針や研修記録などは中身の内容が細かくチェックされるケースもありますので注意が必要です。
また、職員の管理に関しては法定の健康診断を行って健康診断書を保管しているか、医療従事者の免許証コピーを確認し適切に保管しているかなどがチェックされます。
給食関係
給食設備行動の不備の有無や清潔に保たれているか否かだけではなく、適正な検食の実施状況についてもチェックが行われます。衛生管理の点検表や検食簿は正しく記録して保管するようにしましょう。
検体検査に関わる設備や管理体制
検体検査を行う医療機関では、適正な実施、検体検査の精度を確保する責任者の配置などがチェックされます。必要に応じて検体検査の精度管理のための体制整備や委託業者との契約状況などもチェック対象となります。
よく指摘される項目
近年の立入検査において、指摘の中で最も多かったのは「医療安全管理体制の整備」であり、14.9%の医療機関で医療法が守られていなかったことが分かっています。その他、「診療用放射線に係る安全管理体制」が11.9%、「検査制度管理関係」が11.9%、「医薬品の安全管理体制整備」が9.0%、「医療従事者数」が9.0%で指摘されたとのことです。
一方、文書指導で最も多かったのは「施設・設備管理及び衛生管理」であり、61.2%の医療機関が文書指導を受けています。「院内感染予防対策の体制整備」や「医薬品の安全管理体制の整備」も3割以上の医療機関が指導を受けました。
開業前の立入検査では特にこれらの項目に不備がないかチェックしておくとよいでしょう。
保健所の立入検査の当日の流れ
保健所の立入検査は内部告発などによる抜き打ちでの臨時検査を除いて、事前に日時が周知されます。クリニックへの立入検査は一般的に保健所の薬剤師などの担当者が1~2名で訪問して、クリニック内の設備や清潔状況などをチェックします。その他、各種文書のチェックなどを行い、指摘事項や指導事項があればまずはその場で伝えられて検査は終了です。
所要時間はクリニックの規模にもよりますが、一般的には1時間程度となります。
保健所の立入検査では上述したように多くの医療機関が何らかの指摘や指導を受けます。しかし、指摘や指導を受けた場合は速やかに改善に努める必要があります。立入検査は定期的に実施されるため、次回以降の検査時に前回の指摘や指導事項が改善されているかチェックされるため注意しましょう。
保健所の立入検査に準備できることは?
保健所の立入検査が予定されたら、まずは医療法で求められている設備基準や文書管理、医療安全や院内感染対策などが適切な状況であるか確認しましょう。その上で、検査に必要な資料を用意する必要があります。
また、立入検査の担当医者はクリニック内を見回るため、感染対策や医療安全対策が正しくできているかなど事前にチェックすることも大切です。
また、開業時の立入調査の際には開業コンサルタントなどの専門家に立ち会ってもらうと非常に心強いと考えられます。立入検査は管理者にとってストレスになりやすいものですが、指摘や指導されて事項を改善すれば大きな問題となることはほとんどありません。きちんと準備をして過度に恐れることなく検査に備えましょう。
まとめ
保健所の立入検査は医療法で定められた制度です。クリニックであれば開業時に検査を受け、その後は5年に1回程度の頻度で定期的な検査を受けることとなります。
立入検査では今回ご紹介したような事項が細かくチェックされます。改善すべき事項があれば指摘や指導を受けますが、速やかに改善すれば問題ありません。適切な準備をして立入検査に備えましょう。開業届を提出するときにどのような点に注意すべきか保健所の担当部署に確認しておくのもおすすめです。
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