目 次
1. クリニック開業時に使える融資の種類
クリニックの開業にあたっての大きな課題は、開業資金を用意することです。自己資金を潤沢に準備して開業する先生はほとんどいません。希望通りのクリニックを開業するためにいくら必要なのか、その資金をどうやって準備すればいいのかを知っている先生もほぼいません。自己資金で足りない分は銀行で借りればいいと思うかもしれませんが、実は開業資金を準備するには一般の銀行以外の選択肢もあります。
事業用資金を準備することを「資金調達」、事業用資金を借りることを「融資」と言います。
今回は、クリニック開業時に融資を受けられる資金調達先について、優先的に検討すべき順にそれぞれの特徴を紹介します。
クリニック開業の資金調達は?銀行からの借入!融資を受けるポイントも解説
(1)日本政策金融公庫
第一に検討するべき金融機関は、日本政策金融公庫です。一般の方には馴染みがない金融機関ですが、創業や中小企業の経営支援を行う政府系の金融機関です。創業に関するサポートもあり、低利で固定金利で融資を受けられます。
クリニックの開業時では、個人事業主を対象とする「国民生活事業」の「新規開業資金」の融資を使うことができます。融資上限は設備資金が7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、返済は20年以内(うち運転資金7年以内)です。融資後2年以内は元金を返済せずに利息だけを払う「据え置き期間」を設けることもできます。担保や保証人の有無によって金利は異なります。女性または35歳未満か55歳以上で開業する場合は、金利優遇を受けることができます。
デメリットとしては、民間に比べ審査に時間がかかることが挙げられます。
(2)医師会・地方自治体の開業支援ローン
次に検討するのは医師会です。各都道府県の医師会の多くで、医師信用組合や地方自治体と連携しクリニックの開業に特化した開業支援ローンを用意しています。医師会に入ることが条件ですが、診療所の取得や設備資金、運転資金に加えて、高額と言われる医師会の入会費用も借り入れできます。
地方自治体では、金融機関・信用保証協会と連携して中小企業向けに金利や信用保証料を優遇した「制度融資」を提供しています。信用保証料を払うことで万一返済ができなくなったときの保証を受けられ、金利優遇や信用保証料の補助などを受けることもできます。自治体の制度融資を受けるときは、連携先の金融機関を通して申し込みます。
医師会・地方自治体の融資制度はそれぞれ異なりますので、開業地の医師信用組合で相談するとよいでしょう。
(3)民間金融機関の開業支援ローン
最後に検討するのが民間金融機関です。この場合も個人口座を持っているメガバンクにいきなり融資を申し込むのではなく、開業地の信用金庫や地方銀行でクリニック開業支援ローンを扱っているかどうか確認しましょう。
信用金庫や地方銀行の中には、行政や中小企業支援機関と連携して事業者向けのビジネスサポートや研修を行っている場合もあります。特に地域密着型の診療を提供する場合は、地域の企業・店舗や金融機関とよい関係を築いていくと開業後の集患にも有利です。
また、政府系の独立行政法人福祉医療機構では、医療政策に合わせた特別な融資条件があり、医師不足地域では優遇措置もあります。地域の金融機関を通してクリニック開業時の融資を行っています。
一般に信用金庫や地方銀行はメガバンクに比べると金利は低く、融資の審査も通りやすいようです。
2. クリニック開業時の融資の流れ
クリニック開業時に金融機関から融資を受ける手順について解説します。融資を受ける前の準備として大事なことは、創業計画をしっかり作ることです。開業後に資金不足になっても簡単に追加融資は受けられません。診療所の取得費用・医療設備などの開業資金に加えて、経営が順調になるまでの運転資金や返済計画もしっかり作っておきましょう。
(1)融資条件の確認
最初に融資条件を確認します。必要資金の「上限」「金利」「返済期間」「担保・保証人が必要かどうか」を確認します。担保・保証人をつけるかを選択できる場合もありますが、保証料など金利が上乗せされるので、総合的に借入額と返済額、諸費用を比較して決めましょう。
民間金融機関からの融資では、返済期間中の死亡や高度障害に備えて、団体信用生命保険の加入が条件となります。持病がある人は加入できない場合もあるので注意が必要です。
(2)必要書類の提出
次に金融機関から指示された必要書類を提出します。必要となるのは主に下記の書類です。
- 本人確認書類(免許証・印鑑証明書・医師免許コピーなど)
- 経歴書
- 事業計画書
- 土地や建物など、物件の概要がわかる資料
- 設備投資の見積書
- 確定申告書3年分
- 資産状況がわかる資料(通帳や住宅ローンの残高など、資産・負債がわかる資料)
(3)融資担当者との面談
融資面談の目的は、「貸したお金をちゃんと返済できるかの判断」を行うことです。
融資担当者との面談は、次の手順で行います。
- 事前提出書類の内容確認
- 開業計画について、実現可能性のチェック
- 経営者の人柄や思いをヒアリング
- 融資条件の変更や注意点の説明
開業時の事前提出書類では、開業計画書の内容確認が中心となります。特に確認されるのが、地域医療にかける思いや人柄です。開業計画書の内容を自分の言葉できちんと説明できるように準備しておきましょう。
(4)審査
審査にかかる時間は、金融機関によって異なりますが、おおむね2週間程度です。面談時には、審査に通るかどうかと実際に融資を受けられる金額の目安について話を聞くことができます。場合によっては、追加資料の送付を求められることもあります。
面談時に融資可能額と融資決定時期の見込みについて尋ねておきましょう。
(5)融資の決定
面談後、融資担当者から融資実行の可否の連絡が来ます。もしくは、面談時に伝えられた時期に正式な借入契約書が郵送されてきます。実際の融資が実行され、お金が振り込まれるのは借入契約書に押印し、公庫へ返送した後になります。
契約書を公庫に返送すると、到着後3営業日程度で指定の銀行口座に融資金額が振り込まれます。設備投資資金では、支払い先口座に直接公庫から振り込まれる場合もあります。
3. 銀行融資を受ける際の注意点
銀行融資を受ける場合の注意点は、主に2つあります。
1つは、融資スケジュールに注意することです。土地や賃貸物件を取得して建築工事を行うことになりますが、融資の申し込みができるのは土地・建物の契約ができてからです。土地・建物を探すのに時間がかかる場合もあるため、あらかじめ理想の物件を想定して仮の開業計画を策定し、金融機関や設計会社に相談を行っておきます。そして、物件が決まった段階ですぐに開業計画を修正し、正式な融資申し込みと設計に取り掛かれるように準備をしておくことをおすすめします。
もう1つは、希望額を満額借りられるとは限らないため、設備投資や集患予測を厳しめに見積もった運転資金とするなど、融資希望額をぎりぎりとせず多めに申し込むことです。
4. 固定金利と変動金利とは
金融機関から融資を受ける場合の金利は、固定金利と変動金利の2つから選ぶことができます。金利と利率は同じ意味ですが、○%など具体的な数字を示すときは利率という言葉を使います。
一般的には、担保が必要なものより不要なもの、設備投資より運転資金、期間が短いものより長いもののほうが、利率は高くなる傾向があります。
固定金利・変動金利には、それぞれメリット・デメリットがあります。
(1)固定金利のメリット・デメリット
固定金利は、融資実行時に決められた金利が返済期間中変わらず一定である融資方法です。景気変動などにより途中で金利が上がっても影響を受けることはありません。
毎月の返済額が一定のため、資金計画が立てやすいメリットがあります。
デメリットは、変動金利に比べて金利が高く設定されることと、原則として繰り上げ返済ができないことです。
インフレなど世界の金利が上昇傾向のときは固定金利が有利です。逆にデフレのときは、世の中の金利が下がっていても、決められた金利で返済し続けなければなりません。
(2)変動金利のメリット・デメリット
変動金利は、銀行の短期プライムレート(1年以内の最優遇金利)を基準に利率が変動します。融資後、日本国内の金利が変動すると、金融機関は利率を改定します。新金利の適用時期は、金融機関によって異なりますので確認が必要です。
メリットは、固定金利より低い利率で融資を受けられることと、手数料はかかりますが繰り上げ返済が可能なことです。
デメリットは、市中金利が急騰したときは、金利が大幅に引き上げられることです。
金利の推移変動金利の基準となる短期プライムレートの推移を見ると、2000年以降はほぼ1.5%前後で大きな変動はありませんが、1991年のバブル景気の頃は7.88%まで上昇しました。今後の景気変動により、大きく上がる可能性もあるので注意が必要です。
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