目 次
1. コロナによる内科診療所の収入・患者数への影響
新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の影響が続いています。2021年4月現在、4都府県に「3度目の緊急事態宣言」が発令され、まだまだ収束の気配が見えません。このコロナ禍で、
医療業界全体が大きな影響を受けました。診療所の経営への影響は、地域と診療科により大きく違います。
診療所経営への影響を調べるため、社会保険診療報酬支払基金の月報を元に、診療所の外来(入院外)の日数(患者の延受診日数)、件数(患者が受診した延医療機関数)および診療報酬点数に
ついて、診療科別に前年同月比率を出してみました。診療報酬は1点=10円として金額換算します。予防接種や自由診療の収益は含みませんが、点数の対前年比で保険診療の医療収益の変化を見ることができます。
2020年内科診療所の対前年増減割合
診療報酬点数は、各科とも2020年10月に前年の水準近くまで戻したものの、2回目の緊急事態宣言が出た1月に再び大きく下がっています。2021年1月時点では、内科診療所は対前年比−13.5%です。
その他、大きく下がっているのは、外科(-16.3%)、耳鼻いんこう科(-24%)、小児科(-27%)の4科です。比較的影響が少ないのは、眼科、皮膚科、産婦人科です。
点数が昨年に比べて減少している原因としては「診療科別受診日数対前年比」グラフに示すように、受診日数の減少が挙げられます。コロナ対策のマスク使用や外出減で風邪の患者の減少や心理的な受診控えなどを理由として、診療日数が減少している診療科では、点数も下がっています。
2. 新型コロナによる診療所の新規開業への影響
新型コロナによる新規開業の影響について、2020年春に開業を予定していた診療所では開業を延期したところも多数ありました。中国から内装工事の部材が調達できない、面談での打ち合わせができない、内覧会ができないという問題が多発したためです。その後、秋頃からは工事の遅れや部材調達の問題は起きていないようです。
診療所数については、診療科別診療所数を対前年比で調べてみました。大きく減少しているのは、外科、次いで産婦人科、小児科です。増えているのは内科、皮膚科、眼科です。ただし、数が減少している診療科は、新型コロナの影響と言うより数年前から医師数が減少している診療科です。
テレビ西日本の報道「FNNプライムオンライン(2020年10月11日)」では、受診控えで収入3割減となった福岡市内のクリニック閉院の事例が紹介されています。 2021年4月以降も新型コロナが収束しないようであれば、2021年春以降もしくは後継者のいない診療所での閉院が増えるでしょう。
出典:テレビ西日本 FNNプライムオンライン
コロナ禍がクリニック開業に与える影響(ウィズコロナ)
診療所は2021年現在で全国に約10万カ所以上 (厚生労働省医療施設動態調査 令和元年10月1日現在)をもとに筆者作成
あります。人口減と後継者不足にコロナ禍が加わり、今後、間違いなく全国で再編・淘汰が進みます。
開業時に集患目的で、内科医が内科に加えて皮膚科や小児科を標榜することもよくありましたが、今後はより地域の患者ニーズに合わせた医療を提供しなければ、集患の効果は期待できません。
再三の緊急事態宣言で、新型コロナ対策は長期戦になります。持病を持つ患者は、いつまでも受診控えというわけには行きません。ウィズコロナでは、患者は「より安心・安全で専門性の高い診療所」を
積極的に選ぶようになります。新規開業の医師にとっては、「患者から選ばれる診療所」を意識して開業することで、かかりつけ医からの転院を促すチャンスとなります。
コロナ禍がクリニック開業に与える影響(アフターコロナ)
これからの診療所は、アフターコロナといってもウィズコロナと同じ対策が必要です。新型コロナ対策をすることで、より患者本位でスタッフも安全に働くことのできる環境を整備できます。
(1)感染拡大防止対策
来院時の検温や手の消毒、手すりや受付カウンターの除菌、換気は当然です。オンライン診療やWeb問診導入で待合室での密や患者との接触頻度を減らす仕組みが必要です。
患者動線の配慮については、発熱やインフルエンザの患者を入り口で分離し、別動線で待合から診察室へ誘導する院内レイアウトの配慮や空調設備を整備すると良いでしょう。
内装工事や設備機器の初期投資額が大きくなりますが、患者から選ばれる差別化のポイントになります。
(2)専門性を示す
下肢静脈瘤外来やリウマチ専門クリニックなど、専門性に特化した診療所が増えています。それでも、「どこで診てもらえばいいのかわからない」「他のクリニックでは治らなかった」など不安を
抱えたままいくつもの診療所を受診続ける患者は少なくありません。
選ばれる診療所であるためには、『何でも診ます』という診療所から、標榜科の中でも特に専門性を示して特定疾患の患者を集める診療所として訴求することが大事です。
例えば、内科に「頭痛外来」「禁煙外来」、呼吸器内科に「SAS(睡眠時無呼吸症候群)外来」を設けたり、整形外科に「股関節外来」「肩・肘スポーツ疾患外来」を設けたりする例があります。
最近では特に診療所名に専門性を示す「○○頭痛クリニック」や「○○ペインクリニック」などの名称をつける診療所もあります。
専門特化してより多くの症例を診て研究を深め、さらに専門性を高めると同時に、特殊な専門設備機器の導入や特定疾患の薬剤や処置方法を充実させることができれば、より治療に効果をあげるこ
とができます。専門性が明確な差別化になり、より広い医療圏から特定疾患の患者を集めることができます。
(3)オンライン・ITの活用
診療所の新規開業の場合は、電子カルテ、レセコンと連動したWeb予約システムおよびWeb問診システムの導入をおすすめします。電子カルテを導入することで、紙カルテスペースが不要となり事前に
Web問診を済ませて来院するため、問診をもとに患者本位の診療を効率よく提供できます。
また、オンライン診療も導入することで、来院患者の滞在時間を減らすことができ、密を回避するのと同時に患者の利便性も高まります。
さらに、セルフレジの導入で、会計時の接触時間とお金やカードの受け渡しを減らすことができ、感染防止とともにスタッフの労働生産性を高める効果があります。
(4)情報発信
患者から選ばれるには、上記の(1)から(3)の項目について、想定する患者に対して適切にわかりやすく情報発信することが重要です。どんなに感染防止対策をしていても、どんなに専門性を高めても、
それを事前にターゲット患者に伝えることができなければ集患できません。
3. コロナ禍における開業の注意点と特徴
コロナ禍での開業上の注意点と特徴を示します。
(1)余裕を持たせた開業スケジュール
開業までのスケジュールは、賃貸物件で約6カ月、戸建て建設では1年強を目安としますが、コロナ禍では1.3倍程度余裕を持たせて計画しましょう。
内装部材や工事職人の手配、医療機器や感染予防設備の納期遅延、保健所や消防局の検査や防災管理者講習の日程調整など、通常時より時間がかかることが想定されます。
(2)M&Aの増加
後継者のいない医療機関や経営効率を考慮した医療施設の集約などで、診療所のM&A(事業譲渡)が増えています。M&Aでは、譲り受ける診療所で一定期間、働くことが条件となっています。
診療理念が合えば、地域の患者と施設を引き継ぎ、大きな負担なく開業できます。
(3)賃貸物件業者への交渉力
倒産や撤退で空きテナントが増えています。新規物件の少ない地域で好条件の物件が出ることや、家賃交渉、3カ月程度のフリーレント(一定期間の家賃無料の契約)を交渉できる可能性があります。
(4)よいスタッフ採用のチャンス
より安全で働きやすい環境を求めて優秀なスタッフが移動しています。自院の診療理念を明確にし、求めるスタッフ像を具体的に示すことで優秀なスタッフを採用できるでしょう。
4. 内科診療所の新規開業シミュレーションのポイント
診療所の開業計画については、より慎重に考える必要があります。開業後、想定患者数が単純に増えていくことはありません。コロナ禍でも受診・通院が必要な専門性の高い患者さんを確保するには、開業時の立地戦略が最重要です。
日本医師会のJMAP(地域医療情報システム)を使うと、各県の医療圏および市町村ごとに、診療科目別の人口10万人あたりの施設数を調べることができます。同じ都道府県内でも医療圏や市町村によって、今後の人口推移や
医療介護需要は大きく異なります。
下記は、埼玉県南部医療圏の川口市と隣接する東京都北区の人口10万人あたり施設数を示したものです。内科系診療所を例にすると、川口市では人口10万人に対し32施設、北区では51施設あります。内科系診療所の黒字経営の背景人口は
2,000人を目安としますが、川口市では1施設の背景人口3,125人あたりに対し、北区では1,960人です。単純に川口市は北区に比較して1.6倍の患者数を確保しやすいことになります。
開業地の選定に当たっては、想定する診療科でどのくらいの背景人口が得られるかをまず把握した上で、専門性を標榜する診療科の競合について調べることが重要です。
新規開業の事業計画の「収支シミュレーション」を策定するにあたり、前述の立地戦略に加えて、内科診療科で専門性を訴求する場合の留意点をあげます。
(1)適正な設備投資と近隣医療サービスとの連携
循環器内科では、CTやMRIなど近隣の医療機関の検査機器を利用した設備投資の抑制
糖尿病内科では、運動療法、食事指導をする場合、近隣医療サービスからの派遣や委託利用で人件費の抑制
(2)予約制の専門外来設置
専門外来は十分な診療時間を確保するため、曜日・時間を設定した予約枠の設定
(3)患者の利便性を配慮
消化器内科では、夜間や土曜日の内視鏡検査の実施
(4)呼吸器内科
新型コロナ患者への診療方針やコロナ回復後の継続的な経過観察の提供
※ 当社(ウィーメックス株式会社(旧PHC株式会社))では、診療圏調査を無料で行っております。調査をご希望される方は、以下の【無料個別相談の問い合わせ】よりご連絡ください。
5.コロナ禍での診療所開業戦略
コロナ禍でも患者が減らない診療所には共通点があります。
①安心して受診できる環境整備
②先生に診てもらいたいという患者からの信頼確保
③受診する効果がわかりやすい
の3つです。
HPやインスタグラム、LINEを活用し、患者の求める情報発信を継続し、①から③を満たすことで、選ばれる診療所となることができます。ポイントとなるのは、来院してからわかるのではなく、来院前に紹介やWeb検索で十分情報を提供することです。
そのためには、HPで診療方針を明確にし、専門疾患について患者にわかりやすい情報提供や治療方法の説明、健康教室や講演の実績について紹介することで、医師の人柄、考え方を伝えることができます。
筆者プロフィール
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