目 次
1. 働き方改革による医療現場の在り方とは
少子高齢化の労働力不足に対応するため「働き方改革」は医療機関にも必須ですが、医療機関特有の問題もあります。働き方改革による医療現場のあり方について解説します。
働き方改革のこれまでの経緯
「働き方改革」については、医療機関も一般企業と同様、2019年度から年次有給休暇と労働時間の状況の把握が義務となりました。
月45時間年間360時間の労働時間の上限規制の導入は、医師を除き2019年4月(中小企業規模は2020年4月)から適用されています。
医師については医師法の応召義務を理由に対象外とされてきましたが、2024年4月から「罰則付き時間外労働時間の規制」が適用となります。そのため、厚生労働省では2017年8月から「医師の働き方改革に関する検討会」を開催し、その提案をもとに2021年5月21日に「医師の働き方改革を推進するための法律案」が成立しました。
2024年度からの「働き方改革」はどう変わる?
2024年度からの医師の働き方改革について、厚労省の「医師の時間外労働規制について①」をもとに説明します。
まずは医師の時間外労働についてです。2024年4月以降は、原則として年960時間以下に抑える「A水準」を順守しなければなりません。
ただし、医療需要の観点から2つの例外が示されています。
1つは、地域医療提供体制の確保の観点からやむを得ず960時間を超える。「B水準(地域医療確保暫定特例水準B・連携B水準)」2035年度までは年1,860時間以下に上限を緩和されます。
「連携B水準」では、主な勤務先での時間外労働時間は年960時間に収まっても、副業・兼業先での労働時間を通算すると年960時間を超えてしまう医療機関を対象としています。
もう1つは、集中的に多くの症例を経験する必要がある研修医を対象とした「C水準」です。年1,860時間までの時間外労働時間を認めています。
2021年度中に36協定の届け出を行った医療機関のうち、時間外労働時間が年960時間を超える施設のなかでB・連携B・C水準に該当する医療機関においては、2021年10月から2022年9月末までに労働時間短縮計画を策定し、所在する都道府県に提出する必要があります。
2. 働き方改革による医療業界の影響と対策
働き方改革関連法では「時間外労働(残業)に対する上限の厳格化」が行われました。時間外労働に対する上限は一般企業と医療機関とで異なります。また、医師と医師以外の医療従事者でも施行時期が異なります。
医院・クリニックの医師の長時間労働も見直しに!要因・背景は?
診療科や地域による医師の偏在が原因で、病院勤務医を中心に過重労働による医師の過労死が起きています。厚労省の「医師の勤務実態調査」によると、2019年9月の1週間に、医師の上位10%が年換算1,824時間、週38時間もの時間外労働をしています。医師の長時間労働の改善は喫緊の課題です。
医院・クリニックの医師の労働時間の把握方法
働き方改革を推進するため、厚生労働省は2019年4月に労働安全衛生法を改正し、「企業が従業員の労働時間を客観的に把握しておくこと」を義務化しました。医療機関もすべての事業所が適用となっており、反すると法律違反となります。
労働時間の管理については、2017年の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従います。
医師の労働時間の管理についても、他の従業員と同様に次のような客観的な記録方法とすることが求められています。
①労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
②使用者が自ら現認するか、タイムカード・ICカード・パソコンでのログインなどで確認する
訪問事業や研修等で直行直帰も含めて、客観的な記録と使用者の確認が必要なのです。
医院・クリニックの医師の長時間労働への対策
医師の長時間労働への対策としては、医師でなくてもできる仕事を他の医療従事者に移管するタスク・シフティングやICTの活用が有効です。
例えば、医師の判断を待たずに診療補助を行うことができる特定行為看護師の育成やクラーク(医師事務作業補助者)のカルテ入力、Web問診などICT技術を活用した業務効率化で医師の負担を減らすことが可能です。
年次有給休暇取得の義務化の対策
入職後6カ月継続勤務し労働日の8割以上出勤したスタッフは、最低10日の有給休暇を取る権利を持ちます。2019年4月以降の年次有給休暇取得の義務化というのは、これらのスタッフに対して、スタッフが希望してもしなくても、5日以上の有給休暇を時季指定して与えてくださいという制度です。
スタッフが既に時季指定や計画的に5日以上の有給休暇を取得している場合は、付与する必要はありません。
また、対象となるのは正職員だけではありません。パートやアルバイトも、年10日以上の有給休暇の権利があれば対象となります。
継続勤務年数(年) | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数(日) | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
年次有給休暇の計画的付与制度の活用
年次有給休暇の計画的付与制度を導入するにあたって「就業規則による規定」と「労使協定の締結」をしなければなりません。
年次有給休暇日数のうち5日は個人が自由に取得できる日数として残しておく必要があります。5日を超える日数が計画的付与の対象となります。
計画的付与制度の実施については、次のような例を参考にしてください。
- 年末年始や夏季に病院・クリニックを休みにする。
所定の休日に個別の有給休暇を組み合わせ、長期連休にすることができます。 - 部署別に交代で付与する
交代で計画的に休むことで「お互い様」と有給休暇を取りやすい組織になります。 - 個人別に年次有給休暇計画表を作って付与する
半日休暇を組み込むこともできます。
3. 同一労働同一賃金のポイントと対策
同一労働同一賃金の義務化は、働き方改革関連法の一つです。ポイントは、正社員とパートスタッフの不合理な待遇差を改善し、同じ仕事なら同じ賃金を与えることを定めた制度です。
同一労働同一賃金施行の背景
働き方改革の中では、労働時間や雇用形態に関わらず、働く人が意欲や能力を発揮することができる多様な働き方を目指しています。労働力不足を補い、生産性を高めていくには、子育てや介護のためフルタイムで働くことが難しい人や働く意欲のあるシニアの活用も不可欠です。
正社員と同じ仕事・責任で働いているパート・アルバイトが、不合理な待遇の差を受けずに働き続けることができるように整備されたのが、同一労働同一賃金の義務化です。
医療機関における賃金の特殊性
一般企業では、正職員よりパート・契約スタッフの給与(時給)が低いのが一般的ですが、医療機関では、医師や看護師、特定の医療技術者については、時給(もしくは日給)が、正職員の月給から算出した金額より高いことがよくあります。医療技術者不足を解決するために生じた医療機関の賃金の特殊性です。
「同一労働同一賃金」への具体的な対応については、職種ごとに正職員とパート・契約スタッフのどちらも不利益にならないように確認する必要があります。
賃金については、正職員に支給されている諸手当をパート・契約スタッフにも支給するべきかどうか、逆にパート・契約スタッフの諸手当が少なく、時給・日給が正職員に比べて過大な場合は、労働条件の不利益変更にならない範囲で時給・日給を諸手当に振り返る方法も考えられます。
福利厚生・教育訓練
食堂、休憩室などの施設利用や慶弔休暇、健康診断などの福利厚生や教育訓練についても、職務内容や雇用期間に応じて不利益がないことを確認します。
4. 対策ができていない場合のリスクとは?
2020年4月1日施行の「パートタイム労働法」は、労働基準法と異なり、事業主に義務はありますが、罰則は設けられていません。
ただし、違法な状態で事業を継続すると労働者から訴えられ、裁判の結果、待遇差の賃金や手当をまとめて支払わざるを得ない事態に陥る可能性があります。
同一労働同一賃金で注意すべきポイント
同一労働同一賃金に備えて、就業規則や賃金規定を見直すには、パート・契約社員を含む労使の話し合いが必要です。検討の結果、手当等の改善をするためには、雇用制度全体の見直しや人件費・福利厚生費なども検討しなければなりません。
ポイントは下記の通りです。
- 労働者の雇用形態の確認
- 雇用形態ごとの待遇の状況の確認
- 待遇差の理由の確認
- 不合理性の有無と説明
5. まとめ
医療機関の働き方改革は、医師だけでなく医療機関に働くスタッフの働きやすい環境整備です。個人の健康維持・増進そして医療機関の存続に不可欠な取り組みとして、一日も早く取り組まれることをお勧めします。
筆者プロフィール
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