目線の高さに配慮した色彩設計で効果アップ
色彩設計では、そこを訪れる人に「どんな集団的傾向があるか」「どのような動きをするか」「何を期待しているか」を考慮しながら色を決定し、配置していくことが大切です。たとえば、かつて歯科クリニックの色彩設計では、患者さんの体がリクライニングしたときに視界に入る、天井に近い壁の部分に、木目と深いフォレストグリーンの壁材を使ったことがあります。
歯科クリニックでは、治療器具のキーンという音が苦手だという人は多いのですが、実は診療用の強いライトも視神経を刺激し、筋肉緊張を起こさせていることがあります。
木目は日本人の肌の色に近く、親和性の高い色調です。また、緑や青系は光の反射率が低く、筋肉緊張を和らげます。この2つの壁材を治療中の患者さんの目線の先に配置することで、診療室全体の美観を上げながら、できるだけリラックスして治療を受けてもらえるようにしたのです。
病人・高齢者の目線は30度下がる
さて、薬局では患者さんの行動や目線は、歯科とはまったく逆のことが言えそうです。
一般的に「高齢者の目線は健康な成人よりも30度下がる」と言われます。年齢だけではありません。「気分がすぐれない」「どこかに痛みがある」「診察や検査の後で疲れている」こんな状態にあるとき、多くの人が猫背でうつむいた姿勢になりがちです。すると目線は下を向き、しかも視野が狭くなります。この姿勢では、壁の高い位置に色彩設計を施した案内板(ピクトサイン)を作っても視界に入りにくく、効果が伝わりにくいと言えるでしょう。
一般的に、店舗の掲示物は床から150㎝ぐらいの位置に貼ることが多いのですが、薬局では患者さんは座って待たれていることが多いです。注目してほしい掲示物やピクトサインは、座ったときの目線(110~120㎝)に置くことで、視界に入りやすくなります。
「見えにくさ」は人を不安にするだけでなく、事故にもつながります。高齢者の施設では、椅子と床の色が同じだったために、座ろうとして転んでしまう例も起こっています。
そこで、たとえばソファの座面と背もたれ、床の色にコントラスト(視覚的な差異)をつけてみましょう。また、床の色をひと工夫できるなら、入口、カウンター、会計の周辺だけ色を変えることで、患者さんは行動しやすくなります。
こうした色彩設計で安全性につながると同時に、店内を明るく躍動的に見せ、居心地のよい空間になります。