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医療現場におけるダブルチェックの有効性
医療現場におけるダブルチェックは、1回の確認では見落としがちなミスを減らすために効果的な方法です。医療ミスによって、患者さんへの身体的・精神的・経済的負担や苦痛、損失、命に関わる重大なリスクを引き起こす可能性があります。また、医療ミスによって患者さんに障害が生じた場合または死亡した場合、医療訴訟につながる可能性はゼロではありません。
こういった事態を防ぐために、ダブルチェックは有効と言えるでしょう。ただし、ダブルチェックを行う際、医療従事者が見落としを最小限に抑えるための手順やガイドラインに従うことが重要です。また、患者さんの疾患や症状、治療に関する正しい知識と理解を持つことも大切と言えるでしょう。
ダブルチェックはエラーを防止し、安全性を確保する上で有効と言えますが、目的を明確に理解した上で適切に実施することが重要です。
ダブルチェックの方法
ダブルチェックは、1人もしくは2人で確認する方法があります。主な確認方法は、以下の7つです。
・1人連続型
・1人時間差型
・1人双方向型
・2人連続型
・2人連続双方向型
・クロスチェック
・トリプルチェック
それぞれ詳しく解説します。
1人連続型
1人連続型は、1人で連続して2回チェックする方法です。比較的ミスが発生しにくい、リスクの低い業務に適しています。
2人で行うダブルチェックに比べて、人員や時間が少なくて済みます。とはいえ、ミスの発見率は低くなるため、高い精度を求める場合は避けた方がよいでしょう。
1人時間差型
1人でチェックする「1人時間差型」は、1回目の確認をしたのち、時間を空けて2回目のチェックを行う方法です。
時間を空けることによって、1回目の確認で見落としたミスを2回目に発見する確率が高まります。2人で確認する場合に比べて、ミスの発見率は低いものの、やむを得ず2人でチェックできない場合に活用できるでしょう。
1人双方向型
1人でチェックする「1人双方向型」は、1回目と2回目で異なる視点から確認する方法です。
例えば、1回目は上から下へチェックし、2回目は下から上へ確認する方法などが挙げられます。1回目とは異なる視点で確認するため、ミスを発見する確率が高くなるでしょう。1人時間差型と同様、2人で確認する場合に比べてミスの発見率は低くなります。
2人連続型
2人が連続してチェックする「2人連続型」は、ダブルチェックとして最も一般的な方法です。例えば、注射箋と薬剤の照合確認をする際、1回目と2回目でスタッフAとBが役割を交代してチェックします。確認方法は、以下の通りです。
・1回目:Aが注射箋に書いてある内容を読み上げ、薬剤を確認する
・2回目:Bが注射箋に書いてある内容を読み上げ、薬剤を確認する
2人の目でチェックするため、1人で確認する方法に比べてミスの発見率は高くなると言えるでしょう。
2人連続双方向型
2人が連続してチェックする「2人連続双方向型」は、1人目と2人目で確認する視点を変更する方法です。例えば、スタッフAとBが注射箋と薬剤の照合確認をする際、以下の流れで行います。
・1回目:Aが注射箋に書いてある内容を読み上げ、薬剤を確認する
・2回目:Bが薬剤を確認し、注射箋に書いてある内容を読み上げ確認する
目の通し方を変えるため、2人連続型に比べて精度が高いと言えるでしょう。ハイリスク薬剤のような、ミス発生時のリスクが高いケースに適しています。
クロスチェック
クロスチェックは、1回目の確認方法とは異なる視点からチェックします。例えば、病院で医師が書いた処方箋を、薬局の薬剤師が確認するケースなどです。
視点を変えて確認するため、1つの方法では見落としがちなミスを発見することが期待できます。ただし、他のチェック方法に比べて、確認のための工数や時間がかかる点はデメリットと言えるでしょう。
トリプルチェック
トリプルチェックは、3人がそれぞれ1回ずつ確かめる方法です。3人の目で確認するため、ダブルチェック以上にミスが見つかりやすくなります。
ただし、複数人で確認を行うと「自分のほかにも見ている人がいるから大丈夫」ほかの人が間違いを見つけてくれるだろう」と無意識のうちに考えてしまい、確認が甘くなるケースは少なくありません。
トリプルチェックは、担当者一人一人が責任感を持って行う必要があります。
ダブルチェックのミスはなぜ起こる?デメリットは?
ダブルチェックを行ったにもかかわらず、見落としによってミスが発生するケースは少なくありません。ダブルチェックの見落としが起こる要因として、次のようなものが考えられます。
・ミスはないという思い込み
・お互いの作業に対する過信
・チェックのための時間不足
・担当者のスキル不足
・チェックの甘さ
それぞれ解説します。
ミスはないという思い込み
ダブルチェックの見落としが起こる要因として、ミスはないという思い込みが挙げられます。いくら気をつけていても、人間は完璧ではありません。聞き間違いや見間違いなど、勘違いしたままダブルチェックをし、ミスにつながるケースが考えられます。また「1回目の確認でミスがなかったので問題ないだろう」と、2回目の確認で手を抜いてしまうことも少なくないでしょう。
ダブルチェックでは「何回も確認するから大丈夫」と考えがちです。しかし、先入観を持った確認は、ミスの見落としにつながってしまいます。「人間は間違うもの」と考え、責任感を持って確認することが大切です。
お互いの作業に対する過信
ダブルチェックの見落としによりミスが発生してしまう理由に、お互いの作業に対する過信があります。集団で共同作業を行う場合、人数が増えるにつれ、1人当たりの責任感が低下しやすくなります。
「あとから2回目の確認をしてもらえる」「1回確認しているから大丈夫」と、お互いに相手を過信せず「ミスがあるかもしれない」と疑いの目を持つことが大切です。
チェックのための時間不足
チェックのための時間が不足していることは、ダブルチェックの見落としが起こる要因の1つです。ダブルチェックのために2人以上のスタッフが必要な場合、業務を中断したり、人手が取られたりします。そのため、人手不足の医療機関では、ほかの業務のリソース不足やミスの発生につながりかねません。ミスを防ぐためには、十分な時間の確保が必要です。
担当者のスキル不足
ダブルチェックを行う担当者の経験やスキルが不足している場合、チェック機能がうまく働かないケースがあります。経験や知識が十分なスタッフであれば「この患者さんにこの指示は間違っているかも?」と気づく可能性が高くなります。しかし、スタッフのスキルは経験や能力によってさまざまです。
可能な限り、経験やスキルのある人がチェックに携われるよう、院内で調整しましょう。
チェックの甘さ
毎日のルーティン作業や単純作業などでは、業務の慣れによってチェックが甘くなり、見落としやミスにつながりやすくなります。ダブルチェックを丁寧に行っていると、ほかの作業の時間が不足しがちです。効率よく作業するために、チェックが甘くなる可能性が高くなります。
また、日々同じスタッフと仕事を行っていると「このスタッフはミスをしたことがないから問題ない」という思い込みや過信が生まれ、チェックが甘くなる場合もあるでしょう。
ダブルチェックのミス対策
医療ミスを防止するためには、ダブルチェックの見落としを減らすための対策を講じることが大切です。
主な対策には、次の5つがあります。
・ツールや機械を使う
・ルールを策定し徹底する
・ミスの原因を分析する
・チェックのための時間を確保する
・知識や経験のあるスタッフがチェックする
ツールや機械を使う
ツールや機械の使用は、ダブルチェックの見落としを減らすために有効な方法の1つです。ツールの1つに、電子カルテが挙げられます。
電子カルテは紙カルテのように、字の読みにくさがありません。看護師や事務員などの読み間違いによるミスや、転記ミスを回避できます。また、電子処方箋は複数の医療機関や薬局間で情報共有でき、薬の重複や投薬防止など、より適切な薬の管理が可能となるでしょう。
ほかに、バーコードスキャナの使用も有効です。注射薬と患者さんのリストバンド照合に活用すれば、薬剤や氏名の読み間違えや取り間違いなどの心配がなくなります。バーコードスキャナとシステムを使って管理すれば、ミスの削減につながるでしょう。
ルールを策定し徹底する
ダブルチェックを行う際、「誰が」「いつ」「どのように」など、事前にルールを作り、チェックを徹底することが大切です。ルールや確認方法には、指差し確認をはじめ、身体の動きを取り入れると、見落とし削減につながります。
また、指差し確認と同時に発声すると意識が覚醒し、集中力を高める効果が期待できるとされています。ダブルチェックのルールを策定する際は、積極的に取り入れましょう。
ミスの原因を分析する
ダブルチェックの見落としによってミスが発生した場合、原因の分析が重要です。なぜ単純なエラーが発生してしまったのか、どの段階で見落としがあったのか、細かく分析して対策を講じましょう。
原因を分析する際、同じミスを繰り返さないためにも、可能であれば複数人で行い、共有することが大切です。
チェックのための時間を確保する
ダブルチェックの見落としを減らすために、確認時間の確保が必要です。ほかの業務が忙しい場合、ダブルチェックの時間が不足しがちです。少ない時間でのダブルチェックでは確認作業に集中できず、ミスにつながる原因を見落としてしまうでしょう。
全ての確認作業をダブルチェックにするのではなく、単純な作業は1人体制のチェック方法にするなど、人員や時間の確保が重要です。
知識や経験のあるスタッフがチェックする
ダブルチェックでは、可能な限り、知識や経験のあるスタッフがチェックする工程を取り入れましょう。入職して間もない新人スタッフや経験の浅いスタッフにチェックを任せてしまうと、ミスに気づけないリスクがあります。
やむを得ず、新人スタッフにチェックを任せなければならない場合は、チェック作業のマニュアルを作成し、徹底させましょう。
ツールの導入でミスを防ぎ、業務効率化を
ダブルチェックは、1回目で見落としたミスを2回目で見つけるために、効果的な方法です。とはいえ、他人任せであったり、指示に対する疑問を持たずにチェックしたりするだけでは、期待していたほどのミス防止効果を発揮できません。
ダブルチェックの方法にはいくつか種類があるため、自院の状況に合わせ、最適な手段を選びましょう。ツールの導入によって、ミスの見落としを防ぐことが期待できるだけでなく、業務効率化にもつながるでしょう。