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医療広告ガイドラインとは?
医療広告ガイドラインは、医療機関の広告に関する規制を定めた指針です。患者さんが適切に医療を選択できるように支援し、不適切な広告から保護することを目的としています。医師にとっては、自身の資格や実績を正しく発信するために、理解が必要な内容です。本ガイドラインの理解と遵守が、医療機関にとって適切な情報提供を行うための土台となります。以下にて、その目的と専門医資格に関する規定について詳しくみていきましょう。
医療広告ガイドラインの目的
医療広告ガイドラインは、患者さんの保護と医療機関の適切な情報提供を目的として制定されました。背景には、一部の医療機関による誇大広告や虚偽広告が社会問題化したことがあります。
ガイドラインの基本的な考え方は、以下のとおりです。
● 患者さんが適切に医療を選択できるように支援すること
● 医療機関の情報提供を適正化すること
● 誇大広告や比較広告を禁止すること
とくに自由診療については保険診療と異なり価格設定が自由である分、患者さんの経済的リスクが高く、より厳格な規制が設けられています。
医療機関はガイドラインを遵守することで、患者さんの正しい理解を促し、信頼関係を築けた状態で医療を提供できます。
広告可能な専門医資格の条件
医療広告ガイドラインにおいて、広告が認められている専門医資格には、以下の条件があります。
● 日本専門医機構認定の専門医
日本専門医機構が認定する基本19領域の専門医資格は、広告が可能です。たとえば、内科専門医や外科専門医、小児科専門医などが該当します。
● 学会認定専門医(経過措置)
日本専門医機構の専門医制度が開始される前から存在していた学会認定の専門医資格についても、当面の間広告が認められています。ただし、経過措置の将来的な見直しに向けて議論が進んでいます。
条件を満たす専門医資格は、医療機関のウェブサイトや看板等での広告が可能ですが、表示方法には注意が必要です。次節では、適切な表示方法について詳しく解説します。
医療広告ガイドラインにおける専門医資格の適切な表示方法
専門医資格の表示は、患者さんに信頼性と専門性をアピールできる重要な要素です。しかし、不適切な表示はガイドライン違反となる可能性があります。ここでは、専門医資格の名称の正しい記載方法や広告表現における注意点、各記載媒体での適切な表示例を詳しく解説します。
専門医資格の名称の記載方法
専門医資格の名称を正しく記載することは、医療広告ガイドラインを遵守するうえで非常に重要です。具体的には、専門医名や認定機関名、学会名は略せず正式名称をすべて記載しなければなりません。また、複数の専門医資格を持っている場合、それぞれを別々に記載する必要があります。スラッシュや中点でつなげて簡略化することは避けましょう。
以下に、正しい記載方法と誤った記載方法を例示します。現在表記している内容があれば、誤った表記になっていないか確認することを推奨します。
● 専門医の正式名称の使用
● 正しい例:「日本専門医機構認定 内科専門医」
● 誤った例:「専門医(内科)」
● 認定団体の正式名称の使用
● 正しい例:「日本外科学会認定 外科専門医」
● 誤った例:「外科専門医(学会認定)」
● 複数の専門医資格の表示
● 正しい例:「日本専門医機構認定 内科専門医」「日本消化器病学会認定 消化器病専門医」
● 誤った例:「内科・消化器病専門医」
また、厚生労働省が公表している資格名に認められていない専門分野の名称を使用することは避けるべきです。
記載可能な団体名と専門医の資格名についての詳細は、以下の資料をご参照ください。
出典:「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名(厚生労働大臣に届出がなされた団体の認定するもの)等について」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/001063553.pdf)
以上の点に注意して専門医資格を記載することで、ガイドラインに準拠しつつ、患者さんに正確な情報を提供できます。
広告表現における注意点
専門医資格を含めた医療広告において、以下のような表現は使用が認められていません。
● 最上級表現:「日本一」「最高の技術」「最先端」
● 比較表現:「他院より優れた治療」「○○病院の2倍の実績」
● 保証的表現:「必ず治ります」「100%成功」
● 誇大表現:「奇跡の治療法」「画期的な手術」
● 客観的根拠のない表現:「満足度No.1」(調査データなし)
また、体験談や治療前後の写真掲載などで治療の効果をアピールすることも避けるべきです。
これらの表現は、患者さんに誤解を与える可能性があるため、医療広告ガイドラインで禁止されています。代わりに、「100症例以上の手術実績あり」など、客観的な事実に基づいた表現を使用しましょう。
ウェブサイト、パンフレット、看板など媒体別の表示例
各媒体における専門医資格の適切な表示例は、以下のとおりです。
1. ウェブサイト:医師紹介ページに専門医資格を明記する。フォントサイズや色で強調しすぎないよう注意。
2. パンフレット:医療機関の概要や医師紹介のセクションに記載する。ほかの情報と同等の扱いで表示。
3. 看板:医療機関名と同程度の大きさで表示する。専門医資格のみを過度に強調しない。
どの媒体でも、専門医資格をほかの情報と調和させつつ、明確に伝わるレイアウトを心がけましょう。
表示方法については、厚生労働省の「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例集解説書」が参考になります。「医療従事者の専門性資格項」にて、適切な例と不適切な例が併記されているため、目を通しておくとよいでしょう。
出典:「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第4版)」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/001153604.pdf)
ガイドライン違反時のリスク
医療広告ガイドラインに違反が疑われると、まず調査や立入検査が行われます。その結果、違反が確認された場合には、行政指導による是正や中止の命令が下されます。そして、指導内容に従わない医療機関に対し、以下のような処分や罰則が適用される流れです。
● 行政処分: 最も深刻な違反の場合、病院・診療所の開設許可取り消しや、3年以内の医業停止を命じられる可能性があります。(医師法第7条)
● 罰則: 調査や行政指導に対応しない場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される可能性があります。(医療法第87条)
● 社会的信用の失墜: 違反事実が公表されることで、患者さんや地域社会からの信頼を失う可能性があります。
● 経済的損失: 違反広告の修正や撤去にかかる費用、行政処分による診療停止期間中の収入減少など、直接的な経済的損失が発生します。
● 風評被害: SNSなどのソーシャルメディアで違反の事実が拡散されることで、医療機関の評判が急速に低下する可能性があります。
これらのリスクを回避するためには、医療広告ガイドラインを十分に理解し、遵守することが不可欠です。とくに、ウェブサイトやSNSなどのオンライン媒体では、デマ情報が出回ってしまう恐れがあるため、細心の注意を払う必要があります。
不明点がある場合や、広告内容に疑問がある場合は、所轄の自治体窓口へ事前に相談することを強くお勧めします。適切な助言を得ることで、不要なリスクを回避し、適切な医療情報の提供と患者さんとの信頼関係構築の両立を図れます。
出典:「各都道府県、保健所設置市及び特別区における医療に関する広告の窓口一覧」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/000732975.pdf)
今後のサブスペシャリティ領域の広告可否について議論が行われている
医療広告ガイドラインに基づく専門医資格の広告は、現在、基本領域の専門医に限定されています。しかし、医療の高度化・専門化に伴い、サブスペシャリティ領域の専門医資格についても広告可否の議論が進んでいる状況です。
厚生労働省の検討会では、サブスペシャリティ領域の専門医広告を認める方向で検討が進んでいます。ただし、広告可能となる条件として、日本専門医機構による認定や、客観的な基準の設定が求められる見込みです。
専門医広告を掲載する医療機関は、議論の動向に注目する必要があります。今後、サブスペシャリティ領域が広告可能になれば、より詳細な専門性をアピールできる可能性が高まります。ただし、新たな規制や基準も設けられる可能性があるため、常に最新の情報を把握し、適切な広告表示に努めることが重要です。
まとめ
医療広告ガイドラインは、患者さんの適切な医療選択を支援し、不適切な広告から保護することを目的としています。また、医療機関にとっても、専門医資格の掲載は、患者さんとの信頼関係構築や医療機関の差別化に大きなメリットがあります。
ただし、ガイドラインを遵守し適切に表示することが極めて重要となります。本記事で解説した正しい表示方法や注意点を参考に、効果的かつ安全な広告を心がけましょう。