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医師法17条の医業とは
医師法17条の医業とは、具体的には何を指すのでしょう。実は、医師法では医業の定義について明確な定めがありません。2005年7月26日の厚生労働省の通達では、「医業とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと」と示されていますが、結論的には「個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」とされており、明確な線引きは難しいといえます。
医業に関して、タトゥー事件で最高裁判所が示した枠組み
「医業をどのように判断すべきか」。2020年9月16日の最高裁判決において、初めて、具体的な判断枠組みが示されました。事案は、医師でない被告人が、タトゥーショップで針を取り付けた施術用具を用いて皮膚に色素を注入する医行為を行ったというもので、医業を行ったとして、医師法17条違反に問われたものです。
最高裁は、医師法17条は、「医師の職分である医療及び保健指導を、医師ではない無資格者が行うことによって生ずる保健衛生上の危険を防止しようとする規定である」「したがって、医行為とは、医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解する」としました。この点は、上記の厚労省通達とほぼ同義です。
さらに同判決では、「ある行為が医行為に当たるか否かについては、当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で、社会通念に照らして判断するのが相当である」として、具体的な判断要素が示されました。
この判断要素に照らしてみると、タトゥーは、社会的な風俗として受け止められてきたことや、歴史的に見て医師が独占して行うものとはいい難いなどの社会的実情から見て、「医行為」に当たらないとして無罪と判断しました。
タトゥー以外に医業について争いとなったもの
タトゥーは医業には当たらないと判断されましたが、過去の裁判例では、以下のような行為が医業に当たるとされています。
- ・脱毛サロンでのレーザー光線照射
- ・コンタクトレンズの処方のために行われる検眼及び、テスト用コンタクトレンズの着脱の各行為
これらの行為は、タトゥーと異なり医師以外の者が行う社会的実情などは認められませんので、上記最高裁判決で示された枠組みに照らしてみても、医業に当たるといえるでしょう。
医業について注視すべき分野
医業は、端的には「医師以外の者が行えば保健衛生上危害を生ずるおそれのある危険なもの」です。概して身体への侵襲を伴うものは危害を生じるおそれがありますので、医業に該当する可能性が高くなります。
実際に問題となりやすいのは、美容医療の分野でしょう。例えば、脂肪吸引は身体に吸引具を挿入するものですので、医業に当たります。先の裁判例で挙げたレーザー照射による脱毛は細胞を壊すという点で身体の内部に侵襲するものですし、また、ヒアルロン酸注射なども体内への侵襲を伴いますので医業に当たるといえます。
そのほか、日進月歩で新しい技術が現れるので、その都度、個々に医業に当たるかどうかを精査すべきです。なお、例えばインシュリン注射は患者や家族が行いますが、目的の正当性や法益侵害の軽微性などから、医療行為には当たらないと解釈されています。身体への侵襲を伴う行為が、必ずしも医師法違反となるわけではありません。
まとめ
医師しか行えない医業に当たるかは、第一次的な目安としては身体への侵襲を伴うかどうかですが、上記最高裁判決からすれば、社会的実情なども踏まえて判断されるものです。個々の行為について具体的に検討するようにしましょう。