スマートなクリニックとは?
スマートとは、「知性・賢い」という意味で使用されます。近年、ICT化の進展を賢く効率的に進めようという意味で、スマート〇〇という造語が複数作られています。
例えば、総務省は、平成24年版および平成25年版の情報通信白書「スマートICT」について、「スマート化された革新的なICT(情報通信技術)のあり方」を示すコンセプトと定義しています。また、最近では「スマートシティ」という言葉もよく聞かれるようになりました。国土交通省は「スマートシティ」について「都市が抱える諸問題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画・整備・管理・運営)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義しています。
そこで、医療の世界で考えると、「スマートなリクリニック」とは「クリニックが抱える課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメントが行われ、全体最適化が図られる持続可能なクリニック」と定義できるのではないでしょうか。
アフターコロナの新常識
新型コロナウィルス感染症(Covid-19)の感染拡大は、患者のニーズの変化と制度変更をもたらしました。患者ニーズとしては、クリニックにおける待ち時間を減らし、できるだけ感染リスクを下げて、診療を受けたいというニーズが高まりました。制度変更としても、政府のデジタル化政策の一環として、「オンライン資格確認」の義務化が打ち出され、2023年1月からは「電子処方箋」も始まっています。
新型コロナは、これまで中々進まなかったクリニックの様々な経営課題を顕在化したとも言えます。その結果、クリニックはその課題に対して、ICTツールを活用することで解決を図ろうとする試みが増えているのです。
コロナ禍の3密回避の観点から、「待ち時間」や「待合室の混雑緩和」の対策が必要になると、それに対してWeb予約やWeb問診といったICT技術を活用して、できるだけクリニックの滞在時間を減らす試みが始まっています。
また、受付業務の効率化・自動化として、オンライン資格確認や自動受付、Web問診など、将来的に「無人受付」につながるような取り組みが始まっています。
さらには、・精算業務の効率化・自動化として、自動精算機やセミセルフレジ、キャッシュレス、後払いなど、会計時に待たなくてすむ取り組みが始まっています。
アフターコロナのクリニックのシステム化
クリニックでは院内の情報共有を効率化する観点から、電子カルテやPACS(画像ファイリング)などの導入が進んできました。これらはクリニック運営における基盤システムとして、多くのクリニックに導入が進みました。
一方、コロナ禍においては、感染症対策や働き方改革の影響から、ICT技術を活用した業務効率化(生産性向上)が進められるようになりました。その対策として、クリニックでも「タスクシフティング」と「オートメーション化」が進められるようになったのです。この2つの取り組みこそが、スマートなクリニックを進めるための考え方の土台となります。
クリニックは、単純・定型の作業はコンピュータに任せ、ヒトは複雑な業務に専念するようにモデルチェンジを余儀なくされているのです。
スマートなクリニックのつくりかた
「スマートなクリニック」を進めるためには、現状の課題を明確にし、その課題に対して必要なICTツールを選び、導入・運用するという工程が必要となります。しかしながら、いきなりICTツールを導入したからといって、すべての課題が解決するわけではありません。スマートなクリニックを進めるためには、「事前準備」が必要なのです。
事前準備とは、①現状業務の「見える化」②標準化・個々のスキルアップ③業務の再配分(タスクシフティング)④新業務フローの構築⑤ICTツールの活用―というプロセスとなります。デジタル化・システム化は目的ではなく手段に過ぎず、現状をいったん否定し、新たな仕組みを考え出すマインドとそのプロセスが大切なのです。現状業務をICTツールに置き換えるだけではうまくいかないのです。
まとめ
① 新型コロナの感染拡大は、患者のニーズと制度変更をもたらし、クリニックの経営課題を顕在化させた。
② クリニックの課題に対して、ICTツールを活用することで解決を図ろうとする試みが増えている。
③ クリニックは、タスクシフティングとオートメーション化を進め、スマートなクリニックを目指す。
④ システム化は手段に過ぎず、現状を見直し、新しい仕組みを作り出すプロセスが大切。
⑤ スマートなクリニックの目指すことは、ヒトから単純定型業務を奪い、本当に大切な患者満足を高める業務に集中する環境を作ること。