目次
オンライン診療に対する国の方針
2018年3月の厚生労働省が発表したオンライン診療に関する資料からは、医師の働き方改革や感染症流行の影響で、オンライン診療は今後も普及が進んでいくとされています。
同資料からは、医師と患者さまの双方が、安心してオンライン診療を実施・受診できるために指針が定められたとされており、さまざまな関連法案の改正が行われました。
下記は改正の例です。
関連法案名 | 法律 | 内容 |
---|---|---|
無診察治療等の禁止 | 医師法(昭和23年法律第201号)第20条 | 自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付してはならない |
医療提供場所 | 医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2 | 病院、診療所、介護老人保健施設、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設、または患者の居宅で各サービスと連携を取りつつ医療を提供しなければならない |
情報セキュリティ関係 | 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第20〜22条 | ・安全管理措置:個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない ・従業者の監督:当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない ・委託先の監督:個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない |
また、指針の中で、医師は医療法第1条の「医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与すること」を基本理念として、念頭において診察を行うようにと明示されています。
さらにオンライン診療における情報漏洩リスクを理解し、責任をもって個人情報管理を行うことの必要性についても言及されています。
そのため、オンライン診療を行う医師は、ICT機器や情報管理システムなどの仕組みや、対面診療との違いを十分に理解してから実施する必要があると言えるでしょう。
オンライン診療における処方箋の院内処方と院外処方の違い
オンライン診療を始める医師の方々にとって、処方箋の取り扱いが通常の対面診療と比較してどのように異なるのかというのは気になるところでしょう。
次では、オンライン診療における院外処方と院内処方について解説していきます。
オンライン診療における院内処方
院内処方とは、診察後にその病院・クリニックで患者さまに薬を処方する方法です。
オンライン診療での院内処方の場合は、院内で調剤した薬を患者さまの自宅へ発送します。
院内処方のメリット
院内処方におけるメリットは、薬局と連携をとって薬があるかを確認したり、情報提供のためのFAXを送付する手間が省ける点です。
院内処方のデメリット
院内処方の場合は、院内で調剤した薬を患者さまの自宅などまで郵送する必要があり、病院やクリニックでの業務が増えてしまいます。
さらにオンラインではない場合の院内処方も同様ですが、病院やクリニック内に十分な薬の在庫をもつ必要があり、薬剤管理の業務が負担となる点もデメリットと言えるでしょう。
オンライン診療における院外処方
院外処方とは、診察をした病院・クリニック外の薬局に処方箋を渡し、そこで患者さまに薬を調剤して渡す方法です。
オンライン診療における院外処方の場合には、次の2つの方法があります。
・薬局での受け取り
・自宅での受け取り
薬局で受け取る場合は、診察した医師は、患者さまが希望する薬局へ処方箋をFAXで送ります。その後に患者さまやご家族が薬局へ向かい、薬を受け取るといった方法です。
一方自宅で受け取る場合は、薬局で受け取る場合と同様に、医師が薬局へ処方箋をFAXで送ります。薬局は患者さまへ連絡したうえで薬をご自宅へ発送し、受け取ってもらいます。
院外処方のメリット
院外処方のメリットは、通常の院外処方と同じように、病院・クリニック内に薬局機能を設けて薬の保管や管理をする必要がないという点です。また薬を患者さまのご自宅に発送する手間もかかりません。
さらに院内処方より院外処方の方が処方箋の点数が高い※ことも、クリニックにとってはメリットと言えるでしょう。
※2020年度の診療報酬改定時には、院内処方は処方料42点、院外処方は処方箋料68点
院外処方の場合のデメリット
デメリットとして、患者さまが希望する薬局で処方する予定の薬を取り扱っていないケースもあります。院外処方で医師が薬局へFAXを送る場合には、一度事前にFAXを送付する先の薬局へ電話連絡をすると良いでしょう。
オンライン診療における処方箋の取り扱い|電子処方箋や服薬指導
前述の通り、オンライン診療の普及に伴い、現在さまざまな法改正が行われています。処方箋や薬剤指導に関する面でも同様です。
医師法22条および医師法施行規則21条では、医師は患者さまに対して処方箋の「原本」を提供しなければならないと定められていますが、電子処方箋を用いた実証実験も行われ、2023年1月より運用が開始されることになりました。
電子処方箋はICT機器を用いて、医療機関と薬局が処方箋の運用をスムーズに行うための仕組みです。これによって複数の医療機関や薬局で処方や調剤の情報共有や確認ができるようになります。
その結果、患者さまの多受診による薬剤の重複処方を防ぐことも期待されています。
また薬剤師法25条の2において、服薬指導は対面で行う必要があるとされていました。しかし改正を繰り返し、2020年9月からはオンラインでの服薬指導が制度化されています。
これにより、オンライン診療での薬剤の処方もしやすくなったと言えるでしょう。
電子処方箋や服薬指導などの課題であった点についても、早急な法改正が進められています。今後は医師と薬剤師で連携をしつつ、オンラインで完結できる対応が増えていくでしょう。
オンライン診療で処方をする際の注意点
オンライン診療は外来での患者さまの待ち時間がなくなる、医師の働き方の選択肢が増えるなど、医師と患者さまの双方にメリットがありますが、処方の際には注意すべき点もあります。
主な注意点は下記の3つです。
・診療ガイドラインを参考に慎重に行う
・麻薬および向精神薬の取り扱いの制限
・8日以上の処方の禁止
次で、それぞれ詳しく解説していきます。
診療ガイドラインを参考に慎重に行う
オンライン診療においては、新たな疾患に対し医薬品の処方を行う場合は、一般社団法人日本医学会連合が作成した「オンライン診療の初診での投与について⼗分な検討が必要な薬剤」などの関係学会が定める診療ガイドラインを参考に行うこととされており、慎重な処方が必要です。
とくにオンライン診療で初診を行うのに適さないものとしてあげられるのが、下記の症状です。
種類 | 症状 |
---|---|
呼吸器系 | ・急性または亜急性に生じた呼吸困難や息苦しさ、安静時の呼吸困難 ・喀血や多量の血痰 ・急性の激しい咳嗽 ・喘鳴 ・急性または亜急性に生じた嗄声 |
循環器系 | ・強い、あるいは悪化する胸痛や胸部圧迫感 ・突然の動悸 ・何らかの症状を伴う血圧上昇 |
消化器系 | ・強い腹痛 ・悪心や嘔吐 ・吐血 ・血便・下血 |
腎尿路系 | 発熱を伴う腰痛や排便障害、下肢の症状を伴う腰痛 |
その他 | 強い疼痛 |
ほかに感冒症状などでも重症化しやすい糖尿病や心疾患などの既往歴や、高齢などの悪化因子がある患者さまに対しては、オンライン診療は適さないとされています。
関連団体の出すガイドラインや国の指針に基づいて、診療を行いましょう。
麻薬および向精神薬の取り扱いの制限
厚生労働省が提示する『オンライン診療の適切な実施に関する指針』では、オンライン診療の初診では、麻薬および向精神薬の処方は行わないようにとの記載があります。
さらに、日本医学会連合の提示するリスト「オンライン診療の初診での投与について⼗分な検討が必要な薬剤」では、初診の処方において麻薬や向精神薬、ほかにもハイリスク剤として扱われる抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤の処方について、柔軟な対応は必要なものの、原則控えるべきとされています。
そのほかのオンラインでの慎重な投与が必要な薬剤についても、同資料に記載があるため、オンライン診療を始める際には事前に確認しておきましょう。
8日以上の処方の禁止
厚生労働省が提示する『オンライン診療の適切な実施に関する指針』には、基礎疾患などの情報が把握しきれていない患者さまへの8日以上の処方を禁止するなどの規定もあります。
一度に大量の処方を行わないことで、高齢者や精神疾患の患者さまの多受診による重複処方や医薬品の違法な転売、意図的な重複処方など、悪意をもった患者さまの受診を防ぐ狙いがあります。
また処方後も患者さまの服薬状況を把握することに努めるべきとも記載されています。オンライン診療において、処方を慎重に行うことの重要性が示されているわけです。
▽参考記事
厚生労働省『オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月)(令和4年1月一部改訂)』
一般社団法人日本医学会連合『オンライン診療の初診に関する提言』
メリット・デメリットを理解して正しい活用を
本記事では、オンライン診療での処方箋の扱いや処方の注意点について解説しました。
オンライン診療は患者さまの外来待ち時間を削減したり、リモートワークの実現による医師の働き方の改善につながるなど、双方にメリットがあります。
さらに感染症流行を防ぐための方法としても活用され、国も積極的に普及のための法改正を行ってきました。今後もさらにオンライン診療の普及は進み、実施する医療機関も増えていくでしょう。
一方、クリニック経営者や医師は、対面で診療を行わないことによるリスクや注意点を理解したうえで実施しなければなりません。フランスでは、オンライン診療での誤診によって、患者さまが死亡した事例も報告されています。
また、ICT機器の活用によって利便性が高まる一方で、オンライン上での個人情報流出の恐れもあり、適切な管理と対策が必要です。オンライン診療を実施する医療機関は、国や日本医学連合などが提示する指針やガイドラインを読み、確実に対応しましょう。
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