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医師法第20条における診察とは?
医師法第20条では、診察をせずに処方せんを交付するなどして違反した場合、50万円以下の罰金が科されます。ここでいう「診察」は、厚生労働省の通知(健政発第1075号)で「問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」と定められています。
同通知では、原則としては対面での診察が好ましいものの、遠隔医療への対応、患者さんの通院負担など、対面診療を行うのが困難なこともあることから、対面診療を補完するものとして、オンライン診療も認められています。オンライン診療は、この解説の通り医師法第20条には抵触しません。
オンライン診療に関する厚生労働省の指針
厚生労働省は、情報通信機器の進展と遠隔診療の必要性などの社会的背景を踏まえ「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を定めています。同指針は、コロナ禍を受けて2022年1月に改訂されました。ここでは、患者さんとの面談の内容に応じて、大きく以下の3つに分類し、特にオンライン診療に関して遵守すべき事項を定めています。
●オンライン診療
診察および診断を行い、診断結果の伝達や処方などの診断行為をオンラインで行うこと
●オンライン受診勧奨
患者個人の身体の状態に応じた必要最低限の医学的判断を伴う受診勧奨
●遠隔健康医療相談
患者個人の身体の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為
オンライン診療の実施に際して事前準備すべき事項
ここからはオンライン診療を実施するにあたり、事前に準備すべきことを解説します。
医師と患者さんとの合意
まずオンライン診療では、医師から患者さんに対してオンライン診療のデメリットや対面診療に移行する可能性などの情報提供を事前に行いましょう。また、医師と患者さんの間で一定の信頼関係が必要になることから、できる限り初診は「かかりつけの医師」が行うこととされています。
本人確認
医療の正確性を確保するため、対面診療の場合と同様に最低限の本人確認を行いましょう。患者さん側の確認書類例としては、健康保険証(被保険者証)・マイナンバーカード・運転免許証などの提示が挙げられています。
診察方法
医師がオンライン診療を行っている間、患者さんの状態について十分に必要な情報が得られていると判断できない場合は、速やかにオンライン診療を中止し、直接の対面診療に切り替えましょう。またオンライン診療では、リアルタイムの視覚および聴覚の情報を含む情報通信手段を採用する必要があります。例えばチャットでのやり取りは、適切なオンライン診療とはいえません。
オンライン診療後に遵守すべき事項
次にオンライン診療を実施したあとに、遵守すべき事項についてご紹介します。
診療計画の作成
医師は、できる限り患者さんの心身の状態について、対面診療により十分な医学的評価(診断など)を行い、その評価に基づいて「診療計画」を文書や電磁的記録により作成し、2年間は保存する必要があります。ただし、初診からオンライン診療を行う場合は、診察後、その後の方針を患者さんに説明し、診療計画を作成することになります。なお、ここでの診療計画は、診療録(カルテ)を兼ねるものであっても構いません。
薬の処方
原則として医師の判断により、オンライン診療による薬の処方が可能です。ただし、「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」などの関係学会が定める診療ガイドラインを参考にして行ってください。また、初診の場合には下記のものは処方しないこととされています。
●麻薬および向精神薬の処方
●基礎疾患などの情報が把握できていない患者さんに対する、特に安全管理が必要な薬品の処方
●基礎疾患などの情報が把握できていない患者さんに対する8日分以上の処方
医師法第20条に注意して正しいオンライン診療を
新型コロナウイルス感染症の流行の影響で、オンライン診療を受ける患者さんも増えてきている昨今、対応できるクリニックや医師の需要も高まっています。今後さらに需要が高まると予想されるオンライン診療において、医師法第20条違反といわれないよう厚生労働省の指針を参照し、適切な対応を進めていきましょう。
▽参考
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に関するQ&A
e-Gov法令検索「医師法」
厚生労働省「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」