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現在、電子カルテを導入する医療機関が増え、電子保存の三原則が重要になっています。当然、電子カルテに記載する医療行為が発生すれば、必ずその行為を記録しないといけないのです。これは医師法第24条に「医師は、診療をしたときは、遅延なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と書かれています。この診療録は、昔から紙ベースのカルテが使われてきました。ところが紙のカルテの場合、火災や地震などの災害時に記録が消失されます。また個人情報の流出、プライバシーの侵害、改ざん、保険の不正請求など管理上のトラブルも発生します。それでもカルテに書かれている記録は、医療の質を向上や社会的役割を持っています。そこでICTが発達するなかで紙ベースのカルテから替わるものとして電子カルテが登場してきました。
1999年(平成11年)、政府はこの電子カルテを普及させていくために「法令に保存義務が規定されている診療記録及び診療諸記録の電子媒体による保存に関するガイドライン」を策定しました。ここには医師法による守るべきことと電子カルテを使う時の原則が記載されています。現在、このガイドラインは「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版」まで改定しています。
そこで電子カルテを使う場合、この電子カルテの原則「真正性」「見読性」「保存性」の3つを理解しておく必要があります。しかしガイドラインは政府が作成したもので理解しにくい点があることから、分かりやすく解説します。
「真正性」について
真正性とは、ガイドラインによると「正当な権限において作成された記録に対し、虚偽入力、書き換え、消去及び混合が防止されており、かつ、第三者から見て責任の所在が明確であること」と記載されています。この内容を理解しやすくするために、真正性の原則の内容を3つに分けその相互関係から考えてみます。
まず正当な権限において作成された記録とは、ガイドラインの遵守すべき対象者が医療機関等の責任者となっており、この責任者が記録の入力者と確定者に権限を与え、お互いに記録が正しく記録されているかチェックを行い電子カルテの信頼度を維持するのです。
次に虚偽入力、書き換え、消去及び混合を防止するために、入力者と確定者が故意に改ざんしないように入力時の履歴を残す、なりすましをさせないように識別と認証を確実に行う、入力や確定に関することを運用管理規定に記載する、患者の取り違いをしないようにチェックする、ネットワークへ保存するときに細心の注意を図る、操作記録を監査する、入力ミス防止のための教育などとなります。このような防止をしても入力者や責任者が故意にカルテを改ざんすれば違法です。これは保険請求の水増しや不正請求など、医療機関の信頼損失を防止します。
最後は第三者から見て責任の所在を明確にするために、いつ・どこで・だれが入力したか明らかにしておきます。これはカルテが訴訟などに使われる際に信頼が問われます。
つまり真正性とは、誰からも信頼される正しい電子カルテにするための原則となります。
「見読性」について
見読性とは、簡単にいうと電子カルテが、これまで診療を記録してきた紙ベースのカルテと同等であるを証明することです。
そのためガイドラインの見読性の確保には、「必要に応じて電磁的記録に記録された事項を出力することにより、直ちに明瞭かつ整然とした形式で使用に係わる電子計算機その他の機器に表示し、及び書面を作成できるようにする」と記載されています。
この目的は、電子カルテに記載されたものを、診療、患者への説明、監査、訴訟などに使う時に、見やすい書面として出力できることです。
そのためにシステム障害の対応として定期的にバックアップを取ったり、災害時などの対応のためにネットワークを通して外部に保存したりなど、電子カルテが使えなくなっても紙ベースとして使えるようになるのです。また文書などの書面を電子化で保存するときは、e-文書法の精神によって見やすい状態で電子カルテに格納するのです。
カルテを外部業者が保存するクラウド型の場合、総務省が策定した「クラウドサービス事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン」・経済産業省が策定した「医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン」に従わなくてはいけないのです。
見読性の確保では、2011年(平成23年)に発生した東日本大震災で破壊された電子カルテと母子手帳がクラウド型のデータセンターに辛うじて残っていたことがありました。
つまり紙ベースのカルテと同等の紙ベースに落とし込めるシステムは、医療の質を担保できるものなのです。
「保存性」について
保存性とは、記録された情報が真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されていることです。
そのためガイドラインには「電磁的記録に記録された事項について、保存すべき期間中において復元可能な状態で保存することができる処置を講じていること」と記載されています。
この保存を脅かす原因となるのが、コンピューターウイルス、不適切なソフト、不適切な保管と取扱い、記録媒体や設備の劣化、媒体・機器・ソフトウェアとの不適合、障害によるデータ保存時の不整合などがあるのです。
これらから電子カルテの真正性と見読性を守るために、ウイルスなどの不適切なソフトウェアからデータを守る方法、改ざんされているか確認すること、サーバルームの環境を確認する、定期的に診療録をバックアップする、記録媒体や記録機器を新しくする、システムの変更と移行を実施、外部業者がデータをしっかり保存しているか確認するなどの対策があります。これらの対策は医療機関が中心となって実行しないと、知らないうちに保存状態が悪くなっているので定期的な点検が必要になってきます。
電子カルテの普及が日本より進んでいる米国では、蓄積してきた医療データや個人情報が、ハッカーによって盗まれたり破壊されたりしています。今後、日本でも電子カルテが普及すれば、ハッカーなどから狙われる可能性が高くなります。
このようにならないためにも、常に電子カルテ、機器などの点検などを定期的に実施しましょう。