新型コロナがクリニックの経営環境をどう変えたか?
はじめに
2020年初頭に始まった「新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)」。2021年2月から新型コロナのワクチン接種が始まったが、全国民のワクチン接種が完了し、収束に向かうにはもう少し時間がかかりそうであり、しばらくはウィズコロナの状態が続きそうだ。新型コロナの感染拡大は、我々の生活、そしてクリニック経営に大きな変化をもたらしている。
ウィズコロナで変わった「生活様式」
新型コロナは、私たちの生活様式に大きな変化をもたらした。まず、「感染対策」として、マスク着用、手指消毒、3密(密集・密閉・密接)回避といった行動が日常化した。また、「働き方」についても、在宅勤務やリモートワークが推奨され、都心部への通勤が大きく減少した。さらには、娯楽・飲食についても「3密」を避けることが求められており、娯楽・外食の自粛が進んでいる。そして、購買についても、ネット販売が大きく普及し、店舗に出向いて気軽にショッピングを楽しむ機会が大きく減少し、店舗からネットへ大きくシフトしているように感じる。これらの行動変容を「新しい生活様式」と呼び、それが1年も続くと当たり前の流れとなりつつある。
ウィズコロナで変わった「受療行動」
新型コロナは、「受療行動」にも大きな影響をもたらしている。先に挙げた「新しい生活様式」は、感染症の劇的な減少を招き、かぜやインフルエンザといった季節性疾患が流行らない世界を作り出している。また、医療機関での度重なるクラスター発生の報道などから、医療機関は感染のリスクがある危険な場所と位置付けられ、できるだけ「受診を控える」動きが度々起こるようになった。その結果、これまであった待合室の混雑や長い待ち時間を嫌う傾向が一般化しつつある。かつてあった「3時間待ちの3分診療」といった長い待ち時間を揶揄する言葉は、はるか昔の話となりつつある。
この受診控えは医療機関への受診頻度を減少させており、長期処方や電話診療、オンライン診療が普及することで、外来を受診する間隔が長くなってきている。必要な検査が行われず健康診断が減ることは、重症化を招くのではないかとの心配の声が出てきている。
さらに、診療スタイルについても、従来の外来医療から在宅医療へ、そして時限的に拡大された電話・オンライン診療のニーズが一気に高まっている。患者が状況に応じて、受診方法を自由に選べる時代が近づいていると言えるだろう。
長引くコロナ禍は、「生活様式」と「受療行動」に大きな変化をもたらし、過去の常識が通用しない、「ニューノーマル」と呼ばれる新しい社会構造が生まれようとしているのだ。
急速に進む医療のデジタル化
ウィズコロナは、医療のデジタル化を急速に進めようとしている。ICTによる感染症対策、業務効率化に対して、政府から規制緩和と推進のための補助金が用意され、それを活用することでクリニックでも積極的なICT投資が進んでいる。
2020年4月に、新型コロナの感染拡大を受けて「緊急事態宣言」が全国で発令された。それに合わせて、「オンライン診療・オンライン服薬指導」が利用しやすいように、時限的に規制が緩和された。また、感染症対策、医療提供体制の安定化のために、補正予算が3度組まれ、積極的な財政出動が行われている。結果として、補助金を活用したシステム化が活発に行われている。
また、2021年には「オンライン資格確認」の全国での稼働が予定され、その後、特定健診情報、薬剤情報の開示、2022年夏ごろには電子処方箋の仕組みが開始されるという国家プランが進めあれている。現時点で処々の問題により、スケジュールに遅れはみられるものの、政府の積極的なデジタル化政策は、クリニックにおける「デジタル格差」を生み出す懸念すらある状況が生まれつつあるのだ。
政府のデジタル化政策
これまでの医療デジタル化の政策を整理すると、2000年代に、カルテ、レセプト、フィルムのデジタル化(IT)を進め、2010年には医療分野でクラウドを解禁し、デジタルでのコミュニケーション(ICT)を可能とする基盤を整備した。そして、2018年のオンライン診療、2020年のオンライン服薬指導とデジタルでの診療を可能にし、2021年にはオンライン資格確認から始まるデジタル化による社会変革を実現しようとしている。
医療のデジタル化は、IT、ICT、そしてDXへ着実な歩みを進め、医療社会自体を大きく様変わりさせようとしているのだ。医療のデジタル化は待ったなしであり、その流れに合わせて、医療機関は効率化、生産性向上に取り組む必要性に迫れられているのだ。
クリニック経営の転換期
いま、クリニック経営は大きな転換期(ターニングポイント)に立っている。コロナ禍で感染症対策を行いながら経済活動を行わなければならないという難しい局面の最中で、診療の質を維持しながら、効率化を図り、競合するクリニックと差別化を図るといった、3つの目的を達成する必要があるのだ。それを実現するためには、医療のデジタル化への取り組みは大変重要なクリニックの経営戦略となっている。
従来の当たり前が通用しないニューノーマルな時代、急激に進むデジタル化を、どう味方に追い風にするかが、重要な時代となっているのだ。