目 次
1. クリニック(医院)承継とは
クリニック承継とは、既に開業しているクリニックを引き継ぎ運営することを指します。親族の中に既に開業している医師の方がいるのであれば例えば親子間でのクリニック承継、また親族に医師がいない場合でも第三者の医師が運営しているクリニックを譲り受ける方法があります。
そして、クリニック承継では以下のメリットを享受することができます。
(1)開業にかかる初期費用削減効果
既存の内装や医療機器等をそのまま引き継ぐことができるため、新規開業の場合と比較して開業にかかる初期費用を低く抑えることができます。
(2) 事業の見通しが立ちやすい
新規開業の場合は来院患者数、売上や費用等がどれぐらいになるか不透明ですが、クリニック承継ではこれまでの患者数・売上・費用等が明らかなため、事業の見通しが立ちやすいです。
(3)患者さんを引き継ぐことができる
クリニック承継は患者さんも引き継ぐことができるため、開業当初からある程度の売上を確保することができます。また患者さん視点からも通い慣れたクリニックが存続するため地域の貢献にもなります。
2. クリニック(医院)承継の流れ
(1) 開業希望地・時期や診療コンセプト等を考えておく
スムーズなクリニック承継のためにもまず、いつ・どこで開業するかなど考えておく必要があります。実際に承継するクリニックが希望地にあるかも分からないですし、開業することを決めたからといって直ぐに承継できるわけでもありません。ご自身が実現したい診療のコンセプトを持っておけば、承継クリニックの選定も円滑になりますし、承継後のイメージも湧きやすくなります。
(2)クリニック承継について専門家へ相談等をする
次に、クリニック承継の専門家に相談しましょう。承継先のクリニックを自分で見つけるのは困難ですし、承継クリニックの情報を複数有していることが多いので、承継したいクリニックの選択肢の幅も広がります。特にヘルスケア専門の仲介業者であれば多くのクリニックに巡り合えますし、条件に合ったクリニックを紹介してくれます。
(3)秘密保持契約書及び仲介契約書(業務委託契約書)を締結する
信頼できる専門家を見つけたら、秘密保持契約書・仲介契約書を結びます。秘密保持契約は、承継者から預かる個人情報や承継クリニックとの交渉過程で知り得た機密情報を第三者に開示しないことを定めた契約です。仲介契約書は、依頼する専門家の業務内容、業務手数料や報酬体系等について定めた契約になります。
(4)承継クリニック候補先を選定する
承継クリニックの候補先を選定するステップです。承継希望地等の条件があれば専門家から条件に合った承継先を紹介してもらえます。クリニックの情報はノンネームといって、クリニック名・所在地・詳細な財務情報等が分からない匿名での紹介になります。詳しい情報の開示を希望する場合は、承継者の氏名や勤務先の情報を承継元に伝えた上で詳細情報開示の承諾を取ります。この行為をネームクリアと呼びます。ネームクリアは複数のクリニックに同時期に行うことができます。
(5)承継クリニックの内見・院長先生との面談
選定した候補先の中から、特に興味があるクリニックの内見と院長先生との面談を実施します。詳細情報を知っているとはいえ、クリニックの内装・雰囲気・医療機器を見ておかないと決めることはできません。また、院長先生がどのような診療を行っているかなどを面談で確認することで承継後にうまく運営できるかの判断材料になります。内見・面談のステップを踏むことで承継先を絞り込んでいきます。
(6)承継クリニックを決定する
実際に承継するクリニックを決定します。承継過程で得た情報を基に承継先を決めていきます。
(7)承継元と条件調整し、基本合意書を締結する
承継先が決まったら、承継元と承継条件の調整を行います。内装や医療機器の老朽化が想定していたよりも進んでいて買い替えが必要になることもあります。こういった場合は譲渡対価を減額するなど承継元と交渉します。それ以外にも承継時期やスタッフ・契約関係の引き継ぎなどを調整していきます。承継条件の調整が終わり、双方が合意した内容を盛り込み基本合意書を締結します。基本合意書は、合意した事項の内容を証する書面になりますが、一般的には法的拘束力を有しません。
(8)買収監査を実施する
基本合意書締結後に買収監査を実施します。買収監査は、承継するクリニックにリスクがないか、財務情報の数字が適正であるかなどを調査することです。個人運営のクリニックやクリニックの規模が小さい場合は買収監査を省略することがあります。
(9)最終条件を調整し、最終譲渡契約書を締結する
買収監査の結果、クリニックの承継にあたりリスクが存在していたり財務情報が不正確であったりした場合は承継条件の最終調整を行います。最終条件調整後、双方が合意した内容を最終譲渡契約書に盛り込み締結します。
(10)承継を実行し対価を支払う
最終譲渡契約書の内容に沿い承継を実行していきます。契約書には、承継実行日に承継の対象となるクリニックの資産を承継し、承継人は承継の対価を承継元に支払うことにより承継を完了させます。
(11)行政手続きを進める
承継元との間で承継が無事完了しただけで開業できるわけではありません。開業するために、承継人は承継クリニックの所在地を管轄する保健所に診療所開設届を提出した上で保健所の検査を通過する必要があります。また、保険診療を行う場合は厚生労働省所管の地方厚生局に保険診療医療機関の指定申請を行う必要があります。
3. クリニック(医院)承継にかかる費用・相場
クリニック承継においては、承継元が引退後の生活資金等のために承継者が承継の対価を支払うのが一般的です。実際に承継するクリニックの売上等の規模により一概には言えませんが、クリニック承継の対価として2,000万円~4,000万円を支払うと考えておいたほうがいいでしょう。対価は承継元が希望価格を提示するか専門家に依頼して適正価格を定めることがほとんどですが、中には「患者さんのためにクリニックが存続するのであれば対価の支払いが不要」といったケースもあります。
また、クリニック承継を仲介業者等の専門家に依頼している場合は、譲渡対価とは別に手数料を支払う必要があります。クリニック承継における手数料は、承継対価の10%を支払うなど譲渡対価連動型の報酬体系を採用している仲介業者が多く、最低でも300万円~400万円は手数料としてかかります。
4. 親子間で承継するときのポイント
親子間での承継であれば、よく知っている身内から引き継ぐので円滑に行われると考える人も多いかもしれません。しかし、親子間でクリニックを承継する場合も留意しておくべきポイントが複数あります。
まずは相続の問題です。例えば院長が他界しその息子がクリニックを承継する場合、生前院長が所有していた財産は相続財産となり、配偶者にも相続されることになります。そのため、親が運営しているクリニックを子が承継することが生前に決まっているのであれば、土地・建物・医療機器等などのクリニックの財産はあらかじめ特定し、生前贈与・売却するなどして、子が円滑に承継できるよう準備しておくことが有効です。
また、医師である子の専門を把握しておくことも重要です。親である院長と専門分野が異なる場合は、既存の患者さんを継続して診療できるかといった問題が生じるためです。専門分野が異なりどうしても患者さんを引き継ぐことができない場合は、事前に他院に紹介するなどして患者さんに配慮する必要があります。
5. 第三者間で承継するときのポイント
第三者間で承継するポイントについて説明します。
まず、第三者間の承継では、親子間の承継と異なり、どのような資産や負債があるかなど承継者が当然把握できず不透明なため、クリニックのために使用・活用される資産や負債を特定し、その内、何を承継者に引き継ぐのかを明らかにすることで円滑なクリニック承継を実現することができます。
さらに、内装や医療機器等の老朽化の具合をしっかりと確認するのも大切になってきます。承継する先生としては、開業コストを下げるために承継という選択をされているのに内装等の老朽化が進んでいて工事や医療機器の買い替えが必要になり多額のコストが掛かってしまっては本末転倒です。また、特殊な診療や処置を目的に患者さんが来院している場合は注意が必要です。承継者が踏襲することができないと患者さんを引き継げず承継のメリットを生かせないため、事前に院長先生の診療方針等を面談で把握するのが重要です。
6. まとめ
本記事では、新規開業とは別の開業方法としてクリニック承継について説明いたしました。承継者の個別事情を考慮した上でクリニック承継か新規開業か選択することが大事になってきますが、上述のとおりクリニック承継には多くのメリットがあります。今後も引退される院長先生の増加に伴い、承継の対象になるクリニックが増えていくと考えられるので「クリニック承継」を検討してみてはいかがでしょうか。 また、クリニック承継では税務や法務等の専門知識が必要になります。そのため、クリニック承継を検討されている方はクリニック承継に詳しく信頼できる専門家に相談することをおすすめします。
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