目 次
1. クリニック(医院)承継とは
クリニック承継とは、他人が運営するクリニックを引き継いで開業をすることを指しますが、承継する相手や形態によって以下のようにいくつかのパターンに分かれます。
(1)承継元に関して
①親族間承継
まずは親族間承継です。親族がクリニックを運営していなくてはなりませんので限られた方のみの選択肢となります。メリットの例は以下です。
- 【計画的に承継を進めることができる点】例えばオペレーションの観点では、週に一度のアルバイトとして勤務を始めて徐々に勤務時間を増やしていくことができます。また節税の観点では相続や贈与にかかる税額を計算して、場合によっては法人の形態を変えることも可能です。
- 【悪意ある売却者ではないと確実にわかる点】隠していた借金があったり係争中の問題があったりすることはほぼないと言えます。
- 【譲渡対価(営業権)や仲介手数料がかからない点】ただし税理士と相談をして進める必要はあり、相続税や贈与税はかかる可能性はあります。
②第三者承継
一方で、仲介会社などに依頼をして、第三者が運営しているクリニックを承継する場合です。メリットの例は以下です。
- 自身の希望するエリアや診療科目の案件を探すことができる点
- 交渉にあたり万が一揉めてしまっても、辞退をすれば遺恨がない点
- 承継後、両親の顔をうかがわずに自分の好きなようにクリニックのモデルや体制を決めることができる点
(2)承継する法人の開設形態について
①個人クリニック
医療法人の形態になっていなく、医師個人が運営をしているクリニックとなります。個人クリニックはあくまでも個人となるので、契約や許認可は自然とは引き継がれません。よって契約書で譲渡する内容を細かく取り決めて譲渡を行います。スタッフに関しても、一度旧院長のクリニックから退職をして承継する院長と新たに雇用契約を結ぶこととなります。
②医療法人のクリニックについて
一方で医療法人はクリニックの資産や各種契約や許認可を持っている医療法人を譲受することになります。方法としては、出資持分(平成19年4月以降の場合は基金)の譲渡とともに、医療法人の最高決定機関の社員総会と理事会のメンバーの入れ替えによって行うことが多いです。
上記の他にも案件毎に細かな留意点は異なり、その流れや手続きを理解しながら進めていくことが求められます。
●クリニックの事業承継の流れ・手続きに関して詳しく知りたい方はこちらも参照ください。
クリニック(医院)承継とは?手続きや流れ、費用に関して徹底解説
2. よくあるクリニック(医院)の失敗・トラブル
ここでは、失敗・トラブル事例について記載をします。
(1)行政手続きを正式に行えなかった医療法人の売却事例
買収時のチェックが甘かったことが理由でトラブルになった事例です。
【概要】
- 譲り渡した人(売却をした人):医療法人Aの理事長
- 譲り受けした人(買収をした人):医師個人B
- 医療法人:都内で内科1施設を運営する出資持分あり法人
【詳細】
高齢につき引退を考えた理事長は医療法人を譲り受けしてくれる人を探して、出入り業者(医療機関M&A非専門)の紹介で医師Bと知り合い、そのまま譲渡を実行しました。出入り業者が調べながら仲介を行って無事成約し、出資持分の譲渡と医療法人の社員、役員の退任届と引き換えに譲渡対価を支払いました。そして、その後医療法人の役員の変更と名称の変更の手続きをしようとしたのですが、これが認められませんでした。原因は、医療法人を売り手が運営していたときに毎年の事業報告書の提出と2年に1度の役員重任を出しておらず、今回の譲渡に伴う役員変更の前に過去の分を出すように指導をされてしまったためです。結果、予定していた医療法人の名称も変えられず、資材などの作り直しとなってしまいました。
(2)スタッフが全員退職となってしまった事例
次は、買い手の院長の大幅な方針変更により旧スタッフが全員退職をしてしまった事例です。
【概要】
- 譲り渡した人(売却をした人):個人クリニックの院長C
- 譲り受けした人(買収をした人):医師個人D
- クリニック:都内30年続く内科(主に外来の診療)
【詳細】
30年も続き、スタッフも多くが10年以上勤務しているクリニックの院長であったC先生は専門の仲介会社の紹介でD先生と出会い、それからトントン拍子で話が進み無事譲渡契約を締結しました。その後の開業準備にあたり、D先生は自身の想いが先行し、元々の診療スタイルと大きく変更し、電子カルテやオンライン診療などを積極的に導入していきました。しかし、スタッフも自身の慣れたやり方に自負を持っていたのと、事前の説明もないままにいきなりの電子化についていくことができず開業直後に集団退職が発生してしまいました。
3. 失敗・トラブルを防ぐために
上記のようなトラブル例はもちろん人と人の交渉事なのでやむを得ない部分もありますが、それでも多くは未然に防ぐことが可能です。そのために重要なことは以下です。
(1)医療機関について精通した仲介会社に相談をする
医療機関は、医療機関特有の法律(療養担当規則・医師法・医療法など)があり株式会社や薬局などのM&A支援を行っている会社ではその後の手続きの理解や、買収監査での確認項目を見落としてしまう可能性があります。
上記のトラブル事例の①の行っておくべきチェックリストの漏れのほかには、医療法人の名称や本店所在地や分院設立に必要な定款変更のスケジュール感、手間、費用感を把握している仲介者であることが望ましいです。
(2)焦り過ぎない交渉や監査の実施
仲介業務の中で「○月までに譲渡を完了したい」「〇月までに開業をしたい」という要望は多くあります。もちろん不要な時間は使わず進めていくことが非常に重要ですが、その数か月で何か重大な見落としがあった場合はもっと大変です。承継は譲渡契約書に印鑑を押してからは後戻りができないため、事前に焦り過ぎずしっかりと交渉や監査を行うことが重要です。
(3)承継後の開業や運営が重要であることを忘れない
承継を成功させても、その後の開業や運営がうまくいかないと何も意味がありません。そのために承継に関わる交渉中から、その後の開業や運営のことも想定しながら進めることが重要です。
4. まとめ
本稿ではクリニック承継について、主に失敗例やそれを防ぐためのポイントについて記載をしました。大事なのは、失敗を未然に防ぐことです。未然に防ぐことができれば、譲り者(売り手)とWIN-WINになり早期から成功を収めることができると言えるでしょう。
まずは本稿のポイントを押さえながら、適切なアドバイザーに相談をしつつ進めてみてはいかがでしょうか。
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