統合報告書 2024 PHCグループの現状と目指す姿CEOメッセージ PHCグループの現状と目指す姿 PHCグループの事業戦略 PHCグループのサステナビリティ データセクション PHCグループのあゆみ CEOメッセージ At a Glance 価値創造プロセス 中期経営計画の概要 CxO・ドメイン長メッセージ 特集1 身近な暮らしの中に溶け込むPHCグループ 特集2 サステナビリティ座談会 PHCグループの潜在能力を引き出しさらなる価値を創造したい 500人を超える従業員との対話で見えてきた「One PHC」によるシナジーの創出 ヘルスケアはこれから個別化へ 他事業領域に存在する応用可能なテクノロジーの源泉 中期経営計画の見直しを発表、詳細は11月に公表 ESG経営との両輪で生み出す好循環 強みのプレシジョンテクノロジーを支えるのは人財 One PHCでシナジーを創出し、ヘルスケアの未来に向けた取り組みを加速します PHCホールディングス株式会社代表取締役社長最高経営責任者(CEO) PHCグループの潜在能力を引き出しさらなる価値を創造したい 私はこれまで、人の命や健康に深く関わるヘルスケア業界に20年以上携わってまいりました。創薬事業や人工関節、バイオテック、さらに整形外科クリニックの経営など、幅広くヘルスケア業界で経験を積み、医療の格差、医療アクセスの偏在、医療の質の向上といった課題に対して、患者さんへの貢献を第一に考え、実践してまいりました。また、これまで、国内外の化学品メーカーや消費材、コールセンターなど多様な業界での経験で培った、他業界の視点や経営の軸もPHCグループの成長に生かしていきたいと考えております。ヘルスケア業界では、DX化をはじめ早いペースで変革が起きています。業界の常識にとらわれることなく他業種の知見を取り入れながら、当社グループの成長へとつなげていきたいと思っております。PHCグループは、糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンスという3つの事業領域を世界で展開し、研究から診断、治療、予防まで幅広く製品・サービスを提供しています。医療・ヘルスケアの課題解決に向け、PHCグループの持つ力を存分に発揮し、お客さまや社会に価値を創造し、豊かな社会づくりに貢献してまいります。 500人を超える従業員との対話で見えてきた「One PHC」によるシナジーの創出 グループの力を集結するために、CEO就任直後から展開しているのが「One PHC」活動です。PHCグループの各事業会社は、それぞれ異なる歴史や背景を持っています。今後、PHCグループとして1本の軸を通すことが必要であり、そのために「One PHC」の意識づけを社内に啓蒙しています。「One PHC」を支えるのは、当社グループの精緻な技術力、そしてR&D、営業、カスタマーサービスといった各部門の卓越した人財の力です。9,200人を超える従業員一人ひとりが自ら考え、物事を進める力を持つ「自走組織」へと変えていくことが必須だと考えています。2024年5月に、国内外すべての事業の主要拠点を回り、500人を超える従業員と座談会を実施し、直接対話を行いました。活発な議論を通して、従業員の声を聴き、今後の方針や優先順位に役立つ多くの提案も受けました。従業員の真剣な思いや会社に対する夢を聴くこともできました。PHCグループはヘルスケア領域におけるタッチポイントの多さが強みの1つです。この強みを生かし、事業間の連携を通じシナジーを創出していきます。最近の事例では、病院への共同入札やカスタマーサービス部門の共有化、また、臨床検査事業とヘルスケアITソリューション事業の協業によるお客さまへの付加価値向上などがあります。また、隣接事業間での部品の標準化や組み立て工数削減の合理化活動も始まっています。事業間の協力により、地域・顧客カバレッジが広がり、お客さまの声をより広く拾えるようにもなってきています。 ヘルスケアはこれから個別化へ ヘルスケア業界は、DXの観点から見ると、二極化しているようにみえます。まず、研究者の作業工程の自動化に貢献するDX化の加速がみられます。AIを搭載した診断やモニタリングなどテクノロジーの導入が進み異業種の参入も増えています。その一例として、当社グループも遠隔医療システムを提供しています。一方、医療現場に目を向けると、DX化はなかなか進んでいません。日本ではドクター1名と数人のスタッフで運営する小規模クリニックが何万軒もあります。このようなクリニックでは、人手不足もさることながら大きな投資ができないという課題を抱えています。患者さんに一番近い医療現場は、医療アクセスの確保やスタッフの職場環境の改善、医療コストを抑える上での自動化、省力化、 DX化が必須だと考えています。これからは、患者さん一人ひとりに適した予防や診断、治療といった「医療の個別化」へと医療の在り方そのものが変わっていくと思います。年1回の健康診断からスマートウォッチなどを装着して血圧や心拍数、睡眠サイクルなど、リアルタイムに自身で健康管理を行う人が増えています。このような技術革新や健康管理に対する行動変化はこれからも続くと思っています。当社グループも同様の発想のもと、世界初の「皮下埋め込み型」の持続血糖測定システム(CGM)を市場に投入しています。世界全体で高齢化が進む中、認知症やがん、フレイル化が増えることが予測される中、治療や予防、診断の質の向上や医療アクセスの改善がますます求められます。治療法としての再生医療も今後広がりが見込まれます。当社グループは、再生医療に関わる基礎研究と非臨床に取り組む体制を構築しています。 他事業領域に存在する応用可能なテクノロジーの源泉 当社には糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンスの3事業領域がありますが、それぞれに特長があります。糖尿病マネジメント事業領域では、ここ数年での血糖値測定システム(BGM)から持続血糖測定システム(CGM)への市場の転換が起きています。BGMは、100以上の国と地域で販売していますが、欧米ではCGMへの転換が進んでいます。一方で中国やインド、東南アジアなどではBGM市場は拡大していますが、製品構成が変わる中で、今後どのように利益を創出していくかが糖尿病マネジメントの課題です。 CGMは、先ほどお話しした、業界初の皮下埋め込み型・長期間測定可能な製品を次世代製品として位置付けています。当製品は、今年4月に米国食品医薬品局(FDA)から統合CGM(iCGM)の指定を受け、インスリンポンプとの連携が可能になりました。持続的にインスリン投与が必要な患者さんに今後使用いただくことができます。この優位性を生かし糖尿病マネジメント事業領域を将来伸ばしていきます。皮下埋め込み型が世の中で広く認知されるようになると、この製品は大きく市場を牽引すると思っております。 ヘルスケアソリューション事業領域では、創薬支援事業を行うメディフォードにおいて、非臨床・臨床分野の「医薬品開発業務受託機関(CRO)」支援や分析業務、また、海外の製薬企業・分析ラボ向けサービスを強化しています。再生医療などの先端科学領域における製薬企業やバイオテックとのパートナーシップでさらなる成長を目指します。ウィーメックスは、電子カルテシステム、医事コンピューター(レセコン)、電子薬歴システムの開発・販売・保守サービスを提供しており、国内の医科・保険薬局・歯科を広くカバーしているのは当社グループの大きな強みです。今後は、将来的にデータ活用を進め、患者さんに合った薬の処方や服薬指導、診断といった「医療の個別化」に貢献したいと思います。診断・ライフサイエンス事業領域は、今後の重点領域です。バイオメディカ事業の超低温フリーザーは業界を先導する省エネルギー性能で、研究者やラボの支援を行っています。今後の細胞遺伝子治療の発展、がんゲノム医療の実用化にむけて事業を加速させていきます。例えば、細胞の代謝・活動をモニタリングするライブセル代謝分析装置「LiCellMo」はその一つです。「LiCellMo」は、当社グループの技術が他事業へ水平展開した例でもあります。これまで、細胞培養における細胞代謝解析は、サンプルを定点観測するのが一般的で、連続した代謝データの取得は難しいとされていました。「リアルタイム「」連続性」の着想から生まれたのが「LiCellMo」です。細胞変化のデータを持続的にリアルタイムで取得できれば、がんの免疫分野やiPS細胞をはじめとする幹細胞研究への貢献が期待されます。また、病理診断の分野では、病理医が顕微鏡を用いて観察していた組織標本を、高精細にデジタル化する技術を持つ会社と提携しました。今後、AI等との組み合わせによる診断の精度やワークフローの効率化も視野に入れております。私たちは応用可能なテクノロジーの源泉をいくつも持っており、それを基盤に、医療の将来を切り拓いていきます。事業部ごとの個々の動きではなく、総合ヘルスケア企業として各事業部が一体となって動く会社へと変革する、大事な転換点と思っております。 中期経営計画(Value Creation Plan)の見直しを発表、詳細は11月に公表 今年5月に中期経営計画(VCP)の見直しを発表しました。見直し内容の詳細は今年11月に改めて公表いたしますが、今後の取り組み方針をご説明します。まず1つ目は、収益基盤強化のための構造改革です。1年半ほどかけてキャッシュ創出力の向上、財務体質の強化を図っていきます。2つ目はポートフォリオの管理強化です。資本コストやROIC(投下資本利益率)を念頭に置き、事業部や新規事業の精査を行い、ポートフォリオの選択と集中を進めていきます。3つ目は、成長戦略の絞り込みです。事業全体でシナジーを生み出しながら、今後、大きく成長が見込まれる、診断・ライフサイエンス事業領域に注力していきます。 ESG経営との両輪で生み出す好循環 ESG経営と事業の両輪経営が基本方針であり、ESGを生かした事業の組み立てを考えております。例えば、フロンガスを排出しない機器の開発は、お客さまに付加価値を生み、また、環境対応において当社グループの製品の競争優位性が高まることで事業収益にも貢献します。2023年8月に、11の重要課題(マテリアリティ)を公表しました。今年はこれらのマテリアリティに基づく目標値の達成に向けたさまざまな取り組みを実行に移していきます。「環境」における気候変動への対応は、当社グループにとって重要なテーマです。SBTイニシアチブへのコミットメントを表明し、 2025年度の認定取得を目指して準備を進めています。GHG排出量のスコープ3の算定の取り組みもスタートしました。また今年はGHG排出削減目標と実行計画を策定します。また、2025年から始まるEUのフロンガス規制に対応するため、超低温フリーザーのノンフロン化を急ピッチで進めています。今後も各国の動きを注視しながら進めていきます。 「社会」に関しては、ヘルスケア業界への貢献を通じて人々の健康、そして健康な社会の未来を創出していきます。ダイバーシティや女性活躍支援といった差別なき雇用にも継続して取り組んでいきます。「ガバナンス」に関しては、コーポレートガバナンス・コードを順守し、多様な経験・知見を持つ取締役会の運営を行っています。また、当社子会社のLSIメディエンスの中央総合ラボラトリーにおける品質に係る不適切事案では、お客さまおよび株主・投資家の皆さまをはじめとするステークホルダーの皆さまには、多大なご迷惑とご心配をおかけいたしました。外部調査委員会による最終報告書の提言も踏まえ、臨床検査業務に対する責務を再認識し、適正に業務に取り組みます。PHCグループ全体としてコンプライアンス順守の意識付けを徹底してまいります。 強みのプレシジョンテクノロジーを支えるのは人財 PHCグループは事業間シナジーを創出し、健康を願う人々と社会のためにさらなる価値を提供していきます。私たちの最大の強みは、精緻な技術力であり、それを体現する卓越した人財です。今後も「One PHC」を念頭に、グループ一丸となって「ヘルスケアの未来」に向けた豊かな社会づくりに貢献してまいります。ぜひご期待ください。 ※ iCGM指定により、自動インスリン投与(AID)システムとして、インスリンポンプ等の互換性をもつ医療機器との統合が可能となります。